アルミ建築探訪

主張しないマテリアル

主張しないマテリアル

シンプルな空間づくりのために
「横浜市 大森邸」

「美しく住まう」ことに徹した住宅がある。家具や建材のセレクトや、こだわりのライフスタイルを通して、居心地のいい住まいについて考えてみた。

ギャラリーとしての居住空間

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ガルバリウム鋼板で覆われた「シルバーの箱」。内装だけでなく外観の色目にも徹底したこだわりを持って設計されている。

 アルミを床材として使用している住宅が横浜にあると知り、早速取材をお願いした。施主の大森みどりさんはデベロッパーで建築デザインを担当されている方で、基本設計やプランニング、建材や家具のセレクトまで、すべてご自身で行ったと伺い、どのような意図でアルミを床材に使ったのか、アルミの床にはどんなコーディネートを施しているのかと、深い関心を持って取材に臨んだ。
 大きく張り出した木製のデッキにガルバリウム鋼板で覆われたシルバーの四角い建物。玄関ドアを開けると、目の前に広がる40畳ものリビングダイニング。さらにデッキから、木漏れ日がまぶしい緑豊かな庭へとつづく開放的なスペースへ。シンプルで生活感のない大空間に、思わず言葉を失ってしまった。
 
 「部屋の模様替えがとても好きで、季節に合わせてガラッとイメージを変えたりするんですよ。ですから、空間はギャラリーのようにシンプルで、主張しない雰囲気がいいなと思って設計しました」と大森さん。

 インテリアは、白・アルミシルバーとウェンジ材のこげ茶が基本。家具のほとんどをイタリアモダンで統一し、インドや中国のアンティークをさり気なく加えるプロならではのコーディネート。完璧ともいえるその空間に圧倒され、アルミの床材の話を伺うことすら忘れかけていたところに、大森さんが意外な言葉を口にした。

アルミを使うのは冒険でした

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    玄関ホールから見渡すリビング。こげ茶・白・シルバーで見事に統一されたインテリアにさりげなく添えられたグリーンが美しい。

 「最初はグレーのライムストーン、つまり石張りで仕上げるつもりだったんです。ところが見積もりを取ってみると、荷重のある石を敷くための基礎工事が高すぎるため使用が難しくなってしまった。当初から床の色目はライトなグレーと決めていたので、重量とコストの両面から条件にあう「存在を主張しない素材」を探していたところ、アルミが浮上してきたのです。正直なところ、冒険だとは思いましたが、自邸だからあえて使ってみようと挑戦してみました」

 床をアルミで…と決めてから、金属を使った事例をいろいろ調べた。ビスで留めたり、大判で使用した場合にトラブルが起きているようなので、伸縮率の計算を正確に行った。精度が高く、温度変化に対する伸縮率は1㎡あたり0.5mmしかないので、目地幅が小さくすんだのはうれしい誤算だったという。

 「ひとつひとつを大きく取る事が出来たので、目地が少なく、とても美しく仕上がりました。石を使っていたら、多分この3倍くらいの目地が出来てしまったでしょうね」

 アルミを床材に使うにあたって、気になるのは音、傷、気温。この問題は、実際に生活してみて気にならないのだろうか。

 「傷は多少ありますが、よほどひどく扱わない限りはつかないと思いますよ。カーペットならシミになってしまうような汚れも、アルミなら拭くだけできれいになるのは、小さな子供がいる我が家では本当に助かりますね。音の問題も、アルミだからものすごく響くということはないですよ。多少響きがいいかな…という程度でしょうか。アルミの上にラグなどを引いていますから、そこでも吸収されていると思いますね」

 そして何よりも大森さんが絶賛するのは、床暖房の立ち上がり。あまりの暖かさに、冬場はラグを取ってしまうほどだと話す。

「冬は日が長く差し込んでくるので、窓辺はとても暖かくてエアコンがいらないほど。逆に夏場は素足で歩くと、ひんやりして気持ちがいい。夏の強い日差しが入り込んでもギラギラと光るのではなく、やわらかく反射するところも、アルミならでは。とても気に入っています」

アルミでつながった建築家

 実は、大森さんがこの家を設計していた時期に仕事と妊娠が重なったため、構造計画や立体的な空間の構成を任せたパートナーがいた。建築家の仲亀清進さんだ。「住宅建築に対する豊かな経験と繊細な仕事ぶりに惚れ込んで…」とのこと。大森さんが思い描いたシンプルな空間は、仲亀さんの手を経て現実のものとなった。

 そして今、仲亀さんは現在計画中の住宅でもアルミを積極的に取り入れようと考えている。

「大森さんのお宅でアルミを使ってから、非常に興味が湧いてきました。床材として使うメリットは実証済みですし、軽いので外壁として格子状に使ってもいいですね。見た目も美しい上に、合理的な点も素材として魅力的です」

 仲亀さんが設計した住宅で、アルミを取り入れた計画の二棟目が着工する。アルミという素材でつながった建築家の今後を、近いうちにまた取材していきたい。

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    2階 プライベートリビングを兼ねた寝室。正面奥に水回りを設けている。

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DATA
所在地:神奈川県横浜市鶴見区
竣工:2002年12月
敷地面積:254.72㎡
建築面積:95.95㎡
延床面積:162.9㎡
構造:木造2階建
設計:仲亀清進建築事務所+大森みどり
構造設計:S.FORM構造設計事務所
施工:キクシマ

撮影:木田勝久

仲亀 清進

仲亀 清進(なかがめ きよのぶ)

1965年 神奈川県生まれ。
1989年 日本大学理工学部建築学科卒業。
1990-92年 近藤春司建築事務所。
1995年 仲亀清進建築事務所設立。

仲亀清進建築事務所HP
http://www.nakagame.com/