アルミハウスプロジェクト

その工業化を目指して

SUSはこのほどアルミハウスプロジェクトを立ち上げ、アルミ住宅の開発を始めました。本連載は、このプロジェクトの背景ほか、調査・研究結果を紹介するもので、アルミ住宅の開発を理論的に支える根幹ともいえる内容となる予定です。

1.建築は住宅に始まり住宅に終わる。 (吉村順三)

軽井沢の山荘(設計:吉村順三) 撮影:新建築写真部 拡大

軽井沢の山荘(設計:吉村順三) 撮影:新建築写真部

 SUSは1992年の創業以来、FA(ファクトリー・オートメーション)向け機械装置およびユニット機器製品の設計開発、製造、販売に携わってきましたが、その初期よりアルミフレームの専門メーカーとして「アルミを進化させるSUS」というキャッチフレーズのもと、アルミの特性を生かした製品開発を進めてきました。
 このような中、2002年5月に建築基準法が改正され、アルミが建築構造材として認可されます。SUSはそれまで培ってきたアルミフレームに関する技術を生かす好機と捉え、同年10月ecoms事業部を立ち上げ、この分野に参入しました。アルミ製家具の開発、販売を皮切りに、2003年5月には自社の建築であるecoms hallを完成させます。その後も建築家への部材供給、建築家との協働による建築システムの開発にも取り組み、数多くのアルミ建築を実現させてきました。また、2005年9月には初のオールアルミ住宅・静岡M邸が完成。アルミの特性を生かした輻射冷暖房設備や制振ダンパーを持つこの住宅では、竣工後もその効果を検証すべく、継続的にデータ収集を行っています。
 SUSがアルミ建築を手掛けて6年間あまり。私たちはこの間に蓄積した経験や技術に基づき、新しいアルミ住宅の研究、開発=SUSアルミハウスプロジェクトに取り組みます。「建築は住宅に始まり、住宅に終わる」という言葉が示す通り、住宅には建築のすべてが内包されています。SUSは「住宅」に取り組むことで、アルミと建築の新たな関係を築き上げます。

2.住宅は住むための機械である。 (ル・コルビュジエ)

サヴォア邸(設計:ル・コルビュジエ) 拡大

サヴォア邸(設計:ル・コルビュジエ)

ラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸(設計:ル・コルビュジエ) 拡大

ラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸(設計:ル・コルビュジエ)

 SUSがこのたび取り組むアルミハウスは、主要構造体がアルミである住宅です。SUSは、アルミを主要構造体とする構法としてecoms hallの軸組系構法、FA用高強度アルミフレームを用いたtsubomiパネルほか、さまざまな構法を自社で開発してきました。このほか建築家・山本理顕氏とはエコムスハウスなどを実現させたラチスパネルを、伊東豊雄氏とはSUS福島工場社員寮にて用いた曲面パネルや、アルミ押出材の圧縮とワイヤーの張力を利用したsudareという実験的な構法を開発しました。また、静岡M邸ではパネルラーメンとでもいうべき構法を採用しています。
 静岡M邸は前述したとおり、構造体、仕上げ、設備が一体化したオールアルミ住宅です。しかし、単に全素材をアルミ化しただけではありません。FA事業で蓄積されたエンジニアリング技術を活用して開発した、①熱交換器と一体化したパネル構造システム、②輻射冷暖房システム、③アルミのバネ性を利用した制振システム、④熱エネルギーの自動制御システム、を採用しました。ル・コルビュジエの「住宅は住むための機械である」ではありませんが、機械=テクノロジーを用いて四季の変化に対応する知能建築を目指したのです。
 さらにSUSは、省エネルギーや自然との調和が建築に求められる時代の1つの解決方法としてアルミルーバーを開発、供給しています。現在、日本、海外を問わずルーバーは一種ブームといってよいような状況です。日射や通風の制御、外断熱、反射光の利用といった機能はもとより、ファサードの表情を豊かにするためのデザインアイテムとしてさまざまな形状、素材のルーバーが出現しました。SUSでも数多くのルーバーを開発していますが、これを積極的に用いたのがタイ・ランプーンに昨年末竣工した自社工場です。120mにわたる側面のほぼ全面に新開発の電動ルーバーを装着し、ウォールレス(壁なし)とすることで、空調を必要としない工場が実現しました。また、静岡M邸でも、手動ルーバーを東、南、北の外壁に、電動ルーバーをテラスのパーゴラとして採用しています。住宅におけるルーバーの採用事例は比較的少ないのが実情ですが、日本の住宅はかねてより簾(すだれ)や葦簀(よしず)を用いて居住環境を高めてきた伝統があり、その意味でルーバーは現代版簾ともいうことができそうです。アルミ押出材は軽量で精度が高いため、ルーバーの素材としてもっとも適切だと考えています。
 これらSUSにおけるアルミ建築の具体的な技術蓄積を、アルミハウスとその工業化生産に生かしていこうと考えています。

  • ecoms 家具(S-テーブルとS-チェア) 拡大

    ecoms 家具(S-テーブルとS-チェア)

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    ecoms hall

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    ecoms house

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    tsubomiを用いた温室

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    sudare

3.工場で製作される住宅が快適なものであることを広く示さなくてはならない (ジャン・プルーヴェ)

アルミニウム 100年記念館(設計:ジャン・プルーヴェ)外観 拡大

アルミニウム 100年記念館(設計:ジャン・プルーヴェ)外観

撮影:飯田都之麿(※:1999年6月に移設されたもの)

アルミニウム 100年記念館側面の開口部 拡大

アルミニウム 100年記念館側面の開口部

撮影:飯田都之麿(※:1999年6月に移設されたもの)

アルミニウム 100年記念館内観 拡大

アルミニウム 100年記念館内観

撮影:飯田都之麿(※:1999年6月に移設されたもの)

 日本では住宅総戸数が総世帯数を超え、年間着工戸数100万戸の時代が終り、住宅は本格的に〝量より質〞の時代を迎えています。加えて、地球環境保全やCO2削減といった観点から、住宅建設やそこでの生活も省エネルギーを抜きにしては考えられない時代となりました。また、日本特有である住宅の建替え習慣とそれによる30年に満たない住宅寿命についても疑問の声が挙がり、行政サイドによる100年住宅、さらには200年住宅への取り組みも始まりました。これにともない使用する材料に関しても、リデュース、リユース、リサイクルの3Rが求められるようになっています。
 アルミは、その軽量性、強度、耐食性、加工性の高さなどからリユースに大変適した素材です。また、リサイクルが容易であることから、循環型社会に対応する環境素材として注目を集めています。このことから、近年アルミを建築により積極的に使おうという動きが高まっています。1988年から5年間行われた建設省総合技術開発プロジェクトでは、前述した2002年5月の建築基準法改正や、アルミニウム建築構造協議会の発足といった成果を生み出しました。さらに、同協議会は、経済産業省の製造産業技術対策調査等(革新的構造材料産業技術対策調査)を受託し、2005年度より2年間、調査研究が続けられました。2005年度は「サステナビリティの高いアルミハウスの普及を図ること」、2006年度は「アルミニウムの諸特性、メリットを生かしアルミハウスの提案とその普及を図るための具体的な対策の調査、提案」をテーマとして報告書が作成されました。同協議会は、その後もアルミハイブリッドハウスの研究開発を継続していますし、金沢工業大学環境・建築学部建築学科・宮下准教授らによる「アルミ構造体を用いた輻射熱冷暖房システムを有する環境共生型住宅の開発」が、国土交通省・2008年度第1回住宅・建築物省CO2推進モデル事業に採択されるなど、さまざまなプロジェクトが推進されています。
 このような背景のもとSUSは、次の5項目を基本方針として、アルミハウスの研究、開発を進めていこうと考えています。

アルミ店舗ユニット 拡大

アルミ店舗ユニット

撮影:飯田都之麿

フィル・パーク中目黒 拡大

フィル・パーク中目黒

静岡M邸 拡大

静岡M邸

基本方針

①アルミハウスを構成するすべてのフレーム、パーツ類は標準化設計されたものであり、工場で生産されたものが基本となる。組立作業は、常に最短となることを目指す。
②負荷荷重やスパンなどの建築条件、および使用環境などの設計諸条件によって、ラインアップされたアルミフレームや締結システムの中から選択する。
③アルミフレームやブレース材、パネル材および締結金具で構築されるユニットが基本となり、各用途や機能に応じた必要なパーツや材料を選び、フレームに付加する。
④フレームを組み上げたスケルトン構造が基本となるが、外部環境に対応するための環境システムや材料、機器類にも設計対応した構造とし、居住性能を満足させる。
⑤アルミハウスは耐久性の高い素材やパーツ類で構成され、土工事を除きすべて組立作業を基本とする。移設も短時間で解体され、すべての部材は再利用され再組立できることを基本とする。

 現在、日本の住宅市場は、木造在来構法の根強い人気や住宅メーカーによる強い販売力に支えられたプレファブ住宅、それに加え近年増加する高層集合住宅などが群雄割拠する、他国には見られない特異な状況にあります。ここに新たに市場参入することは容易なことではありません。従って、アルミハウスの特長を持たせるためには工業化によるメリットだけではなく、アルミゆえに可能となる居住空間、居住スタイルの創造が不可欠です。そのためには、SUSの技術的蓄積に頼るだけでなく、新たな技術開発にも挑戦し、かつ古今東西の住宅や建築より先達の知恵を学び、さらに、住宅政策から現在の住宅需給動向、住宅メーカーの供給戦略までを調査・分析する必要があると考えています。また、プレファブ住宅やアルミサッシは市民権を獲得するまでに多くの時間、労力を要しました。従って同じ轍を踏まないためにも、市場参入に関しては戦略的な参入作戦を立てることも不可欠です。
 今後は、本誌上にアルミハウス、その工業化にむけた調査・研究、開発の経過を「アルミハウスプロジェクト・ストーリー」として継続的に連載し、皆さまのご意見を頂くとともに、ご一緒にその方向性を考えていきたいと思っています。

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