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アルミニウムの海水耐食性の検証
厳しい海浜環境においても高い耐食性を発揮

アルミニウムの海水耐食性の検証
厳しい海浜環境においても高い耐食性を発揮

2011 年4月、SUS が社団法人軽金属製品協会へ依頼し、浜離宮恩賜庭園内の船着場におけるアルミ桟橋の耐久性に関する調査を実施しました。
この調査報告から、アルミの優れた耐食性と締結部における課題を検証します。

 SUS・アルミハウスプロジェクトではこれまで耐食性・耐候性の観点から、外壁材や屋根材などにおいて、アルミの優位性を提唱してきました。しかしその根拠は、アルミという金属としての特性に基づくものであり、建材として使用されたものを対象とした実態調査によるデータはほとんどありません。またアルミ業界全般でも、20年以上も前の古いデータを用いている状況で、海水や海塩粒子による腐食環境の厳しい地帯においての本格的なデータは、国内では非常に少ないといわれています。そこで、SUSとして改めてアルミの耐食性を立証する必要性を実感し本調査に至りました。

海水に接しかつ干満がある、
厳しい環境におかれたアルミ桟橋

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表1.調査部位の材料および表面処理仕様
複合皮膜B 種:陽極酸化皮膜9μm 以上の上に塗装7μm以上の処理を施し
たもの。

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脚注部の調査部位と測定面

 対象となったアルミ桟橋は、SUSが建材を提供し2007年3月に竣工したもので、海水干満帯におけるアルミ構造物の実態調査には最適な物件です。2011年4月21日に行った実態調査では、SUSが調査補助として参画し、また日本大学理工学部の学生にも協力いただきました。
 アルミ桟橋は、施工から4年が経過しており、クロスタッドシステムを採用したオールアルミ建築です。桟橋上部・下部ともに主に6N01と6063のアルミ合金を使用しており、表面処理は9μmのアルマイト処理に7μmのクリア塗装が施されています(表1)。浜離宮恩賜庭園内にある船着場は、潮汐の海水干満域で、柱脚は海水に漬かったままの部分、潮の干満により水中と水面上を繰り返す部分、水面上でも海水のしぶきを浴びる部分があり、金属にとっては複雑で厳しい腐食環境にあります。施工から1年後の2008年にSUSが独自に行った目視観察では、腐食などの所見は見られませんでした。そして今回、軽金属製品およびその加工技術の研究・調査の公認機関でもある同協会に調査を依頼したことにより、実験規格に則った正確かつ貴重な調査データを得ることができました。

■調査対象
浜離宮恩賜庭園内船着場・桟橋(2007 年3 月竣工)
■調査年月日
2011 年4月21日
■調査方法
・ 目視観察
・JIS H 8679-1 のレイティング
 ナンバ標準図表を使用
・ デジタルカメラによる撮影
・ 膜厚測定は渦電流膜厚計を使用し
 貝類などの付着物を除去後に測定

現場の実態調査

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表2. 実態調査で測定した柱脚の複合皮膜の厚さ(μm)
X7Y1、X7Y3、X4Y1、X4Y3 の柱脚部材の各々8面について、上部および下部の5 点を測定し、平均値を複合皮膜の厚さとした。

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アルミ素地の露出面で、4 年間海水中に漬かった部分も腐食の発生は認められなかった。

〈桟橋下部〉
 38本の柱脚について目視観察が行われましたが、フジツボなどの貝類の付着はあったものの、いずれも除去後の建材表面には孔食などの腐食・劣化は見られず、同時に複合皮膜の厚さの消耗も認められませんでした(表2)。また柱脚の筋交い接合部には、軽微な赤錆はありましたが、ディスゴ処理が施されたステンレス鋼ボルトを用いたことで、アルミとステンレス間での接触腐食の防止効果が発揮されていました。
 一方で、ブレース・リブ、接合プレートの溶融亜鉛めっき処理の鋼材には、使用部材の20%~ 40%に赤錆、白錆の発生を確認。加えてディスゴ処理およびジオメット処理が施されていないステンレス鋼ボルト・ナットを多数用いた付近のアルミ中桟部材には、1~2㎜程度の異種金属接触による腐食が発生していました。

〈桟橋上部〉
 手摺やサッシ、案内看板などが丸4年間、海浜環境にさらされたものの、いずれの部材・部位にも腐食・変色・劣化などはありませんでした。またルーバーや軒天も土埃による汚れが付着している程度で、水拭きで容易に除去でき、腐食やふくれなどの劣化は見られませんでした。

塩水噴霧試験による耐食性評価

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表3. 人工海水を用いた噴霧サイクル試験3000 時間後の試験体本体の外観観察結果

 今回の実態調査に加えて、人工海水を用いた噴霧サイクル試験も行いました。試験体は、アルミ形材(6063)に、実際に使用される可能性の高い6種類の表面処理を施し、ボルト・ナットを組み合わせたものを作成。それらを、海水の干満帯域の環境に近い人工海水を用いた噴霧サイクル試験機にかけ、1000時間毎の抜き取り調査を3回、計3000時間の観察を行いました。結果、すべての試験体で皮膜の厚さの増減は1μm以内となり表面の変化は認められませんでした。ジオメット処理を施したスチールボルトも防食効果を発揮。しかし、ステンレス鋼ボルトが接合した無処理材と陽極酸化皮膜材では1000時間で異種金属接触腐食が発生しました。3000時間に至ると、表面処理の有無に関わらず、アルミとステンレス鋼ボルトとの接合では、異種金属接触腐食が発生しています。またアルミ(無処理および電解着色)の試験体では、2000時間で軽微な白色モヤ程度の腐食生物が生じたのに対し、溶融亜鉛めっき鋼板は1000時間(屋外使用7年相当)で全面腐食しました(表3)。

有効な調査データを活用し
アルミ建築の締結の課題に挑む

 今回の調査報告で特筆すべきは、潮風を受けるなどの一般的な海浜環境ではなく、先述の通り、非常に複雑かつ厳しい環境にあるアルミ構造物において、その耐食性の高さを実証できた点です。表面処理の観点からは、アルマイト加工にクリア塗装を施す複合皮膜が、海水中・干満帯において有効であることが分かりました。しかし、塩水噴霧試験では、表面処理の有無や種類に関わらず、皮膜の厚さに変化がなかったことから、今後は用途や予算に応じた加工工程の見直しや検討も視野に入れることができるでしょう。またアルミ形材と異種金属による接触腐食では、ボルト・ナットのディスゴ処理およびジオメット処理が防食効果を発揮していました。一方で、アルミニウム構造材の接合部には防食設計を十分施す必要があるともいえます。
 SUSでは、このアルミ形材と締結金具の異種金属接触腐食という課題に対して、ボルト・ナットを含めたオールアルミ化を計画しており、その開発に着手しています。今回の調査により「オールアルミ」という考え方がアルミ建築にとって非常に有効であるという確証を得られたといっても過言ではありません。加えて5年後の再調査を目的に、アルミ桟橋の柱脚部には、新たに暴露試験のサンプルを設置しました。今後は経過観察を続け、バックデータを蓄積することによって、SUSが提唱するアルミハウスの耐候性を実証していきたいと考えています。

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    調査日より5 年間行う暴露試験では、6 種の表面処理仕様とボルト・ナットを組み合わせたサンプルを設置。

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    柱脚の筋交い接合部。ディスゴ処理を施したステンレス鋼ボルトを用いたため、軽微な赤錆が生じたのみ。