ココスガーデンオープン
ラチスパネルを使った一般のアルミ建築第1号となったココスガーデン。4年掛かりでなんと6回もの計画案を他社に提出させたというこの店舗の改築にアルミが決定したのは、ほんの数ヶ月前のことでした。
「繊維業界で働いていた頃に、当時ファスナーの製造販売会社だったYKKの吉田社長が、アルミ建築の可能性について語られているのを伺い、大変感銘を受けました。その時からずっと抱いていたアルミに対する思いが30年以上だってようやく実現できる。そんな気持ちから一気にアルミでお願いする事に決めました」
街中で注目を集めるアルミ建築
家族や従業員の方にまったく相談せず、独断で話を進めてしまった為、前例のないアルミ建築に対する周囲の反響は様々だったようです。
「最初は反発する声もありましたが、工事が進むにつれ、周りの見方が変わってきました。ここは官公庁街で、毎日1万8千人もの人が行き来する場所。通りがかりの人たちは『何が出来るんだ』って顔をして見ていましたよ。契約をした後に、エコムスハウスがグッドデザイン賞金賞を受賞したという話が舞い込んで来たのも嬉しかったですね。これはいけると、自信が確信につながりました」
吉原氏はアルミ建築はもちろん、ラチスパネルが作り出す千鳥格子の紋様に大変魅力を感じたそうです。ちなみに千鳥柄は着物にも使用され、厄落としを意味する大変おめでたい柄なのだとか。商売にはとても縁起のいい模様だというお話も聞かせていただきました。また柱がない分、空間を有効活用でき、コンクリートでは1メートルしか取れなかった店舗前のスペースを、最大2.8メートルまで取る事が出来たのも、ラチスパネル工法の大きなメリットだったと吉原氏は語ります。
価格に対する現実 今後の課題
しかし、価格に対してはまだまだ検討をして欲しいとの提言も。
「やはり理想は、坪60万円でしょう。現在の価格では高すぎます。店舗の場合は坪単価以外に内装費などが掛かってくるので、最初は坪60万円で契約し、その後に出てくる施主の要望に応じて、制作に掛かった費用を別途算出するという方法を考えて欲しいと思いましたね。エコムスハウスは工期が短い分(約2ヶ月)、もっとコストダウンが図れるのでは…というのも正直な感想です」
将来的には、花を愛する人の為の『ケアハウス』を建築したいと話す吉原氏。シロアリやシックハウスなどの害を受けない健康な家づくりがアルミなら可能だと考えています。
「アルミには、癒しがあるんですよ。昔は鍋や弁当箱など、みんなアルミだった。アルミを見ると幼い頃の懐かしい思い出が甦るんです。そのアルミに花の癒し効果が加わったら、素晴らしいケアハウスになると思いますね。そんな夢が早く実現できるように、アルミ建築がもっと普及してコスト面の問題がクリアされることを心より期待しています」
ラチスパネル工法が作り出す
新しい建築スタイルのあり方
ココスガーデン設計に携わった 建築家 佐野正樹氏に聞く
今回、「ココスガーデン」の設計を一任された「山本理顕設計工事」元スタッフで、現在福岡市内に事務所を構える佐野正樹氏。新工法による一般建築第1号であるのはもちろん、開発者の手を離れ、別の建築家がラチスパネルを前面に使った建物を設計するという点に、大きな注目が集まりました。
Q.ラチスパネルについては以前からご存知でしたか。
A.山本さんがアルミ建築のプロジェクトを立ち上げたとは伺っていましたが、実際には昨年2004年3月の九州アルミ建築セミナーで知りました。
Q.実際にラチスパネルを使ってみての感想をお聞かせください。
A.まずは工期の短さ(約2ヶ月)に驚きましたね。それから設計者の役割が変わると感じました。敷地の活用の仕方、配置、眺めなどから考えていく従来の役割が、モジュールが決められたラチスを使用することで根底から変わってくる。新しいスタイルの建築であると実感しました。
Q.モジュールが限定された建築でやり難さは感じませんでしたか。
A.いえ、思った以上にやりやすかったです。今回は店舗でしたので、敷地を有効に活用し、出来るだけスペースを作るということだけを考えて設計すればよかったからかもしれませんが、今度はぜひ住宅のプランも考えてみたいと思いました。
Q.通常の建築とラチスパネルを用いた建築、どこが一番違いましたか。
A.プレハブ工法のため、工場で作られている部材の製造ラインと現場の組み立てペースが噛み合わず、工程イメージを掴むのが大変でした。今までは「基礎の次は何…」と流れを把握しやすかったのですが、今回は工場で何が行われているのか現場ではわかりにくく、少々不安でした。お互いの状況を常に把握し、すり合わせをしていく体制をきちんと整える必要があると感じました。
Q.アルミ建築は基礎工事が難しいと聞きますが、いかがでしたか。
A.基礎は現場作業なので、どうしても誤差が粗くなる。しかし上に乗るアルミの躯体は誤差1~2mmという精度ですから、その2つをジョイントするアンカーボルトの位置が2mmでもずれていると穴が合わない。非常に気を使う作業でした。
Q.アルミ建築の基礎工事に対して改善すべき点はありますか。
A.アンカーボルトの入る穴に遊びを持たせて、それを標準として施工できるような作り方にしておけば、誰でも扱えるシステムになっていくのではないでしょうか。残念ながら現段階では、誰にでも建てられるというものではないですからね。
Q.ラチスを使ってみて、他にどんな可能性があると感じましたか。
A.木材のブレースのように木のフレームにラチスを接合して耐力壁としても使えるのかなと話していました。ただし「建材金物」としての法的認可が必要になる。然るべき機関に測定を依頼して実験結果と共に申請すれば、認可は下りるでしょう。そうなれば使用範囲は大きく広がりますね。
Q.「アルミ建築」がもっと普及するために必要な課題はありますか。
A.やはりコストでしょう。使ってみたいけど、予算が合わなくて断念するという建築家はたくさんいます。このハードルをクリアできると、普及も進んでいくと思います。またリサイクル性の高さは、これからの建築を考える重要なポイントです。仮設建築やリースなど、今までの常識にとらわれない新しい建築スタイルに、アルミは欠かせない存在になっていくのではないでしょうか。
データ
名称:ココスガーデン東山公園店
所在地:福岡県福岡市東区馬出
主要用途:物品販売業を営む店舗
竣工:2004年12月
敷地面積:129.88㎡
建築面積:80.44㎡
1階床面積:70.98㎡
2階床面積:70.98㎡
延床面積:141.96㎡
構造:アルミニウム合金造、地上2階
ココスガーデン全工程紹介
1 基礎作業 10/13~10/28
基礎は施工性を考え、マットスランプとして設計。捨てコンクリートには差し筋を行い、アンカープレートは溶接にて所定の位置に固定。アルミの工場加工精度と現場作業の誤差を最小にするため、アンカーの位置出しには細心の注意が必要。またアルミの腐食を避けるため、コンクリートに接する面にはジンクロメート錆止めペイントを塗布。
2 ラチスパネル組立 10/29~11/3
柱脚形材施工後、ラチスパネルを1~4段目まで組立。1段ずつラチスパネルの仮締めを行い、施工が進むにつれ誤差が大きくならないように必ず各段ごとに水平・垂直方向のレベルの調整を行う。2段目以降はあらかじめラチスパネルに縦枠・コーナー枠、上部の十字接合材を取り付けておき、セット後の取付作業を最小限にとどめる。
3 折版・床版取付け 11/4~11/18
4段目下端の高力ボルトまで本締めを行い、その後地組みした梁ユニットの取付けをおこなう。床版ユニットは所定の位置に並べ、ユニット同士は接合材を用いてビス止めにする。折版に直行する側の端は中ボルトで固定し、その際ブラインド用のブラケット、2階アルミアングルの巾木を共締めにする。屋根裏も同様に施工する。
4 外壁取付け、内壁組立11/19~12/15
垂直・水平方向ともに構造が固まると、スキンとしての外壁の取付けを行う。外壁面としてはアルミ断熱パネル、突出し窓、網入ガラスの3種類が用意され、設計者の意図や設計条件に応じて自由な位置に取付けを行うことができる。ラチス構造から独立した内壁を組み立てることで、各プログラムに応じた空間を内部に計画することができる。
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佐野 正樹(さの まさき)
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1967年 沖縄県生まれ。
1990年 九州芸術工科大学芸術工学部工業設計学科卒業。
1992年 同大学院芸術工学研究科生活環境専攻修了。
近畿大学九州工学部非常勤講師を経て、1999~2001年Berlage Institute Amsterdam在籍。
2001~2002年 山本理顕設計工場。
2003年 AL architects設立。