ココスガーデン5
アルミ建築のさきがけを後世に残す
左:吉原春造さん、右:吉原直樹さん
このような経緯を経て竣工に至ったココスガーデンも、竣工後、はや13年。冒頭でもお伝えしましたように、外壁のラチスパネルは美しいまま、大変きれいな状態を保っていますが、実際に使っている方にとって、このアルミ建築はどういったものなのでしょうか。吉原春海さんから代替わりして、オーナーとなった吉原春造さんと吉原直樹さんにお話を伺いました。
アルミ建築の草分けを後世に残す
まずいただいたのは、「後世に残すべき建物だと思っています」という言葉でした。直樹さんは、袋やかばんなど、ものづくりに携わる身。最近は、見た目のおもしろさだけを狙って、基本を疎かしたものづくりが多いように感じるといいます。つまり、これまで培ってきた技術の蓄積をないがしろにすることで、壊れやすい、すぐにだめになる製品が増えているのではないかというのです。文化というものは根ざし草であってはいけない、その意味でも、このアルミ建築の草分けともいえる建物を長く使い続ける中で見えてくる、アルミ建築に関する知見を蓄積していってほしいとのことでした。とはいえ、それは観念的なもの。実際に、使い勝手はどうなのでしょうか。
室内にあふれる光が植物の生育を促進させる
「植物がよく育ちます」とはココスガーデンを経営する春造さんの言葉。開口部を通して入った日光がアルミに反射して、間接光として室内に回っていくことが、植物の生育によいようです。植物に優しい建築であることに間違いはなさそうですが、人間にとってはどうでしょうか。夏はやや暑く、冬はやや寒いというのがその答え。しかし、それはアルミだからということではなく、防犯上の理由からダブルではなくシングルの網入りガラスを使ったことに問題があるようです。もう1つ気になる点、それは外階段の囲うラチスパネルを留めているボルトが錆びついている点です。遠目ではわかりませんでしたが、近くから見ると、アルミが劣化しない分、ボルトの錆が気になりました。SUSが近年販売しているアルミボルト・ナットも当時はまだ開発されていませんから、それを使うには無理があるとしても、せめてステンレスのボルト・ナットを使っていればと思わずにはいられませんでした。
用・強・美を兼ね備えたアルミならではのパネル構造
このようにガラス開口部やパネルを留めるボルト・ナットに問題を感じたことは確かですが、13年の月日が経とうとしている今も、古びることなく存在するラチスパネルには感銘を受けました。このラチスパネル、実は東京都内でも見ることができます。毎年11月から翌年1月にかけて東京渋谷の恵比寿ガーデンプレイスで世界最大級のバカラシャンデリアを点灯するイベントがありますが、そのシャンデリアを覆うショーケースの構造に使われているのです。また、SUSは駅ホームの待合室も数多く手がけていますが、現在、ラチスパネルを構造壁に使った新型の待合室を開発中と聞きます。ココスガーデンほかラチスパネルを使った建築が今日までに培ってきた技術の蓄積が、ここに来て、また花開こうとしているように感じました。