08「鋳物とダイカスト」について学ぶ
アルミニウムの工業材料としての特性を深く掘り下げる「アルミ素材学」。第8回目は「鋳物とダイカスト」を取り上げます。「鋳造」といっても構わないのですが、ここでは鋳造のもつ多様な世界を表現するために、あえて「鋳物とダイカスト」としました。今回は、前半で、なぜアルミは鋳造しやすいのか、鋳造にはどのような方法があるのかを解説し、後半では、アルミ合金地金の製造を手がける大紀アルミニウム工業所の取り組みを通して、鋳造用アルミ二次合金の製造プロセスをご紹介します。
「鋳物とダイカスト」について学ぶ
アルミ鋳造は、大きく鋳物(砂型鋳物、金型鋳物)とダイカストに二分されます。アルミは鋳造のしやすい素材であり、鉄鋼材料の鋳造品に比べ軽量化を図ることができます。またダイカストは、大量生産が容易で、精度が高く、平滑度の高い製品が得られることから、自動車部品を中心に、各種産業機械部品から建築金物、日用品に至るまで幅広い分野で使用されています。
アルミの加工方法における鋳造の位置づけ
アルミが、私たちの暮らしや社会の中に最終製品となって登場するまでには、さまざまな工程を経る必要があります。その工程の第1段階として位置づけられるのが、圧延、押出、鍛造、そして鋳造です。圧延とは板や箔を、押出は形材や棒状の製品をつくるための加工方法です。一方、鍛造はプレス機やハンマーなどで圧力をかけながら形をつくる加工であり、鋳造は溶けたアルミを鋳型に流し込んで冷却し、所定の形状にする方法です。鋳造を用いると、複雑な形状でも1回で、継ぎ目なく生産でき、かつ鋳型を繰り返し使うことで、同じものを大量につくることが可能です。
なぜアルミは鋳造に適した金属なのか
鋳造に適した金属としてはアルミのほかに、鋳鉄、鋳鋼、銅、マグネシウム、亜鉛、ニッケルなどを挙げることができます。この中でアルミは、比較的安価であり、軽く、ハンドリングがよいことから鋳造に最も適した金属といわれています。鋳鉄、鋳鋼に比べると高価ですが、軽さという点ではアルミないしマグネシウムに敵う金属はありません。しかし、マグネシウムは発火しやすく、ハンドリングが難しいことに加え、リサイクル時に不純物が混入すると使用できないことから、まだまだ使用が限られているため、アルミの方がより扱いやすいといえます。
鋳造にはどのような方法があるのか
アルミの鋳造方法は、大きく鋳型の材質で分類することができます
1.砂型鋳物
鋳造法の中では最も古くから行われている方法です。粘土分をほとんど含まない天然ケイ砂、人工ケイ砂などに粘結剤を混ぜてから、木型に詰めて固めた砂型にアルミ溶湯を流し込み、凝固させて製品をつくる方法です。砂型を1回ごとにつくる必要があるので大量生産には適しませんが、砂型そのものは金型より安価で製作時間も短く、比較的寸法の大きな製品にも対応できます。なお、冷却スピードが遅いため、組織が粗く、凝固時に水素ガスが放出されますので、ピンホールができやすいという欠点があります。
2.金型鋳物
耐熱鋼あるいは鋳鉄でつくられた金属製の鋳型を用いる鋳造方法です。砂中子(空洞部をつくるための型)を使うことができるため、多少複雑な形状や、大きな鋳物にも適用できます。
3.ダイカスト
アルミ溶湯を高速(20~60m/s)、高圧(30~150N/mm2)で金型内へ射出、充填し急速に凝固させる鋳造方式です。鋳肌が極めて美しく、寸法精度に優れた薄肉鋳物を短時間で大量生産できることが特徴です。
4.その他
このほかに高い寸法精度を得ることができるインベストメント鋳造や石膏鋳造があります。インベストメント鋳造はロストワックス(ロウを失う)とも呼ばれ、ロウを使ってつくった模型のまわりを鋳砂などで固めた後、ロウを溶かして空洞をつくる方法。一方、石膏鋳造とは、シリコンゴムの主型を用いて石膏で鋳型をつくる方法です。
鋳造方法にはそれぞれ得手不得手があるため、つくる製品の形状や数で、用いる方法が決まります(表1参照)。
鋳造用のアルミ合金と展伸材用のアルミ合金は違う
アルミの加工方法に、圧延、押出、鍛造、鋳造があることは前述したとおりですが、これら加工方法に応じて、使われるアルミ合金は異なります。圧延、押出に使うアルミ合金は展伸材用合金といわれ、添加する元素の種類と添加量によって大きく1000系から8000系の8種類に分類されます。
一方、鋳造用のアルミ合金は、鋳型に溶湯を鋳込む際に圧力を加えない砂型・金型鋳物用合金と、圧力を加えるダイカスト用合金の2つに大別されます。これら鋳造用アルミ合金も最終用途によって強度や耐摩耗性、高温強さなどの性質が変わってきますので、それに応じて添加する元素の種類と添加量を調整する必要があります。そのため前者には記号ACで始まる10種類が、後者には記号ADで始まる5種類が用意されています(図2参照)。
ダイカストでは圧倒的に二次合金が使われている
日本国内では約96万tのアルミダイカストと約42万tのアルミ鋳物が毎年生産されていますが、ダイカストについてはその9 0%以上が、鋳物についても70%以上が二次合金を用いた製品です。逆に展伸材、つまり圧延、押出に使われる二次合金の割合は3割程度しかありません。
二次合金はさまざまなスクラップから生産されています。このスクラップには、銅が付いたアルミ製ラジエーターや鉄製のビスが付いたままのアルミサッシなど、アルミだけを物理的に分離することが大変難しいものも数多く含まれています。この銅や鉄は素人考えでは不純物でしかありませんが、ダイカスト製品をつくるという観点から考えると、大変有効な成分になるのです。次のページ以降でその秘密に迫ります。
再生・循環のサイクルが確立
新塊→鋳物用→ダイカスト用アルミ合金
鋳造用アルミ二次合金の製造プロセスを紹介するとともに、なぜダイカスト製品についてはその90%以上に、鋳物についても70%以上に二次合金が使われているのか、その秘密を解明します。1922(大正11)年創業で、アルミ合金地金の製造・販売において国内第1位のシェアを持つ株式会社大紀アルミニウム工業所・滋賀工場長の今井保治氏と名古屋営業部の小栗功氏よりお話を伺いました。
再生しやすいアルミの原料は市中に、しかも潤沢に存在する
アルミはほかの金属と比べると腐食しにくく、融点が低いため、使い終わったアルミ製品を溶かして、簡単に再生することができます。しかも再生に必要なエネルギーは、新地金をつくる場合と比べてわずか3%であり、とても経済的な材料だといえます。しかも現在は、市中にアルミが潤沢にあり、比較的安く容易に原料が手に入る状況にあります。大紀アルミニウム工業所が原材料不足に悩み、スクラップをアメリカから輸入していた昭和初期とはまったく状況が異なるのです。
このように、軽さや加工性のよさ、電気や熱を通しやすい、といった利点に加え、環境にも優しいという点もアルミの特徴です。資源循環という点から考えても、今後、もっと使われるべき素材なのです。
厳密な規格に基づいた配合と成分分析で合金が生まれる
アルミ鋳造用二次合金の製造に対して、大鍋にスクラップを放り込んで、ごった煮にするようなイメージを持たれている方が多いようです。あながち間違っているわけではありませんが、整理すると図3のようになります。
まずは使用されなくなった自動車、アルミサッシなどからアルミのみを取り出します。自動車であれば破砕し、そこからアルミ以外の、鉄、銅、亜鉛、ガラス、プラスチックといったものを取り除きます。磁石を使って鉄を分別するほか、比重選別や手選別といった方法も用います(プロセス1)。
全国から集められたリサイクルアルミ材は、アルミ缶、アルミホイール、アルミサッシといった種類ごとに選別区分され、原料置き場に集積されます(プロセス2)。次に行うのは、これら集積された原料の成分分析です(プロセス3)。それがないと、つくるべき合金の規格に応じた原料配合計算ができません。これが済めば、いよいよ溶解(プロセス4)、精製(プロセス5)です。炉中でも分析し成分値の調整を行うほか、脱ガスや非金属介在物の除去などを実施し、問題ないことが確認できれば、出湯し、鋳造(プロセス6)、梱包、出荷へと進みます(プロセス7)。
なお、二次合金だからといってリサイクルアルミ材だけを使うわけではありません。つくる合金が含有すべき金属の量はあらかじめ決まっているわけですから、その規格に合うように、かつ安価なスクラップを選び、生産しています。
鋳造用合金の懐の深さ
表2はAl-Si-Mg系鋳造用合金であるAC4A合金、AC4C合金、AC4CH合金およびダイカスト用合金AD12の成分比較表です。すべての成分がとはいいませんが、AC4Aの靭性の向上を目的として不純物の含有量を厳しく規制することで生まれたのがAC4CやAC4CHですから、当然といえば当然ですが、AC4AよりもAC4Cの方が、AC4CよりもAC4CHの方が成分含有量の数値が小さくなっていることがわかります。このことは、AC4CH合金をベースにAC4C合金やAC4A合金をつくることは容易であるけれども、逆は難しいということを意味しています。
AC4CHというアルミ合金でつくられている自動車アルミホイールは、市中に大量に出回っていますので、二次合金の材料に適しています※ 1 。このアルミホイールを再生すれば、AC4CHよりも少し規格が緩くブレーキキャリパーの材料に適したAC4A合金やAC4C合金をつくることができます。このように、アルミ鋳造用合金には、用途に応じてさまざまな種類があり、これらを段階的にリサイクルし続けることが可能なのです。
アルミリサイクルの到達点ダイカスト用合金AD12
AC4A合金やAC4C合金よりもさらに成分の規格が緩い合金にAD12というダイカスト用合金があります( 表2 )。規格を緩くしたから、粗悪で性質に劣ると思ったら大間違い。AD12に含まれる銅や鉄に下限値があることからもわかるとおり(表2)、銅と鉄は不純物などではなく必要な成分です※2 。鋳造性に優れた高力合金として位置づけられており、その用途は広く、最も使用量の多いダイカスト用合金です。
アルミダイカストの90%が二次合金でできていることの秘密はここにあります。用途に応じて段階的にリサイクルしていっても、品質が落ちるわけではなく、逆にAD12という大変優秀な合金にたどり着く。これこそがアルミ鋳造用合金の再生・循環のサイクルであり、ほかの金属はもとより、アルミ展伸材用合金にもまねのできない大変優れた特徴なのです。
※1:実際はAC4CHの中でもさらに基準の厳しい合金をホイールメーカーは使っています。
※2:銅には、引張強さ、耐力、硬度、切削性の向上、鉄には金型への焼付き防止効果があります。
COMPANY DATA
株式会社大紀アルミニウム工業所
大阪市西区土佐堀1丁目4番8号 日栄ビル
http://www.dik-net.com/