その他

海水干満帯域におけるアルミニウム構築物の耐久性に関する調査報告

本調査は、2011 年1月SUS 株式会社からの提案によりSUS 株式会社が東京都の許可を得て同年4 月に第1 回の調査(4 年経過)を実施し、2015 年6 月に第2 回調査(8 年経過)を、2019 年10 月に第3回調査(12 年経過)を実施し、そして今回2023 年6 月に第4 回調査(16 年経過)を実施したものです。調査対象とした浜離宮恩賜庭園の船着場は2007 年3 月に造られ、A6N01 形材を主として用いたオールアルミニウム製の構築物で、東京都の施設です。

この調査現場は海水干満域で、柱脚は、海水に浸かったままの部分、潮の干満により水中と水面上を繰り返す部分、水面上にあるが海水のしぶきを浴びる部分があり、金属にとっては複雑で厳しい腐食環境にあります。従来、当協会がアルミニウム建材の耐久性について行った各種の調査は一般大気環境における耐食性、陽極酸化皮膜や塗膜の劣化(耐久性)に関するものです。しかし、海水に浸かる部位での使用や海水の干満の影響を受ける環境で使用されるアルミ材についての本格的な調査は、海外では報告例がありますが、我が国では今まで例がありません。また、実際の建物を継続して定期的に調査している例となると海外でも例を見ません。本調査レポートは、この意味で唯一の貴重な調査資料となるものです。

第1回の調査研究は、Ⅰ.現場の実態調査(4 年経過)、Ⅱ.人工海水を用いた複合サイクル塩水噴霧試験による耐食性評価及びⅢ.海水や海水雰囲気中におけるアルミニウムの耐食性に関する国内外の文献調査からなっています。
第2回の調査研究では、Ⅰ.現場の実態調査(8 年経過)、Ⅱ.アルミニウム表面処理材と溶融亜鉛めっき鋼板の海水干満帯域暴露試験及びⅢ.国内文献調査によるアルミニウム材料の耐海水性からなっています。
第3回の調査では、12 年経過したアルミ構造物や建屋などの実態調査を主としています。そして、今回第4回の調査は第3回と同様に16 年経過したアルミ構造物や建屋などの実態調査を主としています。

調査の結果ではおおむねアルミニウム合金材は良好な状態が保たれています。特に桟橋上部のアルミ構造物や建屋では当初の美観を維持し、健全で良好な耐久性を示していました。桟橋下部のアルミ構造物であっても船着き場の鉄骨構造体近傍の柱脚以外では良好な状態が保たれていました。本報告書は、今までの過去3 回の調査研究の内容も含めてまとめています。

道路、橋、港湾、公園などの公共用地における構築物は、美観と共に長期の耐久性が求められます。その耐久性を決定づける最大の要因は耐食性です。アルミニウム合金製の公共構築物は、美観がよく、メンテナンスフリーで長期間の使用に耐えることから、初期コストが多少高くてもLCCの点で優位であり、景観の良さと長期の耐久性を要求される構築物の素材として適していることが実績により証明されました。

本調査研究報告書は、アルミニウム構築物の設計と維持管理に関する指針のバックデータになるものです。

アルミ構築物の海水干満帯の実態調査

調査は、アルミ構築物の各部位について、目視観察が行われました。また、手摺、方立、柱脚の一部について皮膜厚さを測定しました。
「外観の評価」は汚れ(貝類付着、油分付着)、腐食、変色、ふくれ・キズの程度を部位毎に観察記録、写真撮影しています。

1.調査方法

1.1 調査構築物

浜離宮恩賜庭園船着場・桟橋。施工:2007 年3 月(東京都中央区浜離宮庭園1-1)

1.2 調査日時

第4回:2023 年6 月5 日〔経年16 年〕
※第3回:2019 年10 月28 日〔経年12 年〕
※第2回:2015 年6 月5 日〔経年8 年〕
     ※追加調査:2015 年7 月31 日
※第1回:2011 年4 月21 日〔経年4 年〕

観察方法は次により行いました。
a)目視観察:目視観察は原則として50cm の距離から行った。
b)腐食の状態は、JIS H 8679-1(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜に発生した孔食の評価方法-第1部:チャート法)のレイティングナンバ標準図表(RN)を用いた。
c)写真撮影:デジタルカメラを用い撮影した。
d)膜厚測定:渦電流膜厚計(サンコー電子研究所EDY-1)を用いて行った。部材表面の貝類など付着物を除去後測定した。

2.桟橋上部のアルミ部材の構築物の調査

手摺及び方立ての外観 拡大

手摺及び方立ての外観

2.1 外観観察結果

1)笠木、手摺、方立
桟橋上部の笠木、方立は海浜域の腐食に厳しい環境において16年経過しても、いずれの部材とも腐食、変色など目立った変化はなく、良好な外観を呈していました。
コロナ禍で閉園されていた間、日常の清掃が行われなかったのか、直接雨が当たらない面や方立ての上部では、前回調査より汚れがやや目立ちました。また、一部の方立ての上部には、軽度の腐食が見られた箇所もありました。

2)ルーバー
船着き場側のルーバーは屋根の覆いがなく、直接風雨に曝される状態にあるのでセルフクリーニング効果により、汚れ、腐食などの劣化はなく綺麗な外観を保っていました。
券売所側のルーバーは屋根パネル、トップライトで覆われているためか、ルーバー側面に汚れや変色がやや目立ち、点食の発生も認められました。
これらは前回調査(12年経過時)に比べて表面状態は若干劣化しているものの、軒天環境にあることを考えると、一般の屋外同様製品と大差はないと思われます。

  • 拡大

    ルーバーの外観:屋根(透明)のない部分

  • 拡大

    券売所建屋側

案内板の裏側:波板の外観状況 拡大

案内板の裏側:波板の外観状況

3)案内板波板、風よけ目隠し板
船着場券売所の右側・海側に面しており、風雨に常時曝される状態のため、セルフクリーニング効果により、腐食、変色などなく前回調査と比較しても変化なく良好な外観を呈していました。表面処理仕様が電着塗装による複合皮膜処理が施されているためもあります。

4)雨樋
アルミパイプ製の雨樋は、雨の当たりにくい屋根の内側に向いた面では、第1回調査(4年経過時)で白点状0.3mm~0.5mm程度のピット状腐食(RN 8)が、第2回調査(12年経過時)では、RN 6以下とやや進んでいましたが、今回調査では、腐食がやや進んでいる程度で前回と大きな差は認められませんでした。雨の当たる屋根の外側に向いた面では、比較的光沢もあり、良好な外観を呈していました。
パイプのため皮膜厚さの測定は無理でしたが、 アルマイト仕上げのみで、第1回の調査の時から表面に干渉色が見られることからしてアルマイト皮膜は薄膜と思われます。

  • 拡大

    雨樋の外観(外側)                            (屋根側)

軒天の外観 拡大

軒天の外観

5)券売所の軒天
軒天には、土埃による汚れが付着していました。複合皮膜仕上げのため変色やふくれなどはありませんでしたが、点食の発生が認められましたが、前回調査から腐食(RN 8)が特に進んでいる様子は認められませんでした。

亜鉛ダイカスト製丁番 拡大

亜鉛ダイカスト製丁番

6)券売所のサッシ
アルミサッシは、汚れ、 腐食、変色、ふくれなど外観異常はなく、非常に綺麗な状態でした。

7)その他の金属部材
開き戸に取付けられている亜鉛ダイカスト製丁番で、前回調査(12年経過時)の時と同様に、まだらな白色腐食生成物が全面に発生していました。

2.2複合皮膜厚さ

桟橋上部の複合皮膜厚さの測定結果を表に示します。なお、手摺の上面(笠木)は曲面のため、手摺子を測定しました。図に測定位置を示します。
手摺の複合皮膜厚さは平均で 20μm、方立は22μm と過去3 回の調査結果と比較してもほとんど減耗しておらず、良好な結果を示していました。方立上部に設置されている丸皿(円形状のプレート)の皮膜厚さは、丸皿①では約24μm と経年と共に減耗していましたが、丸皿②では約26µm と変化はありませんでした。外観は前回調査と同様で塗膜の白亜化や円の周囲で塗膜が摩耗してアルミ素地の露出が一部に見られました。

  • 拡大

    図:皮膜厚さ測定位置

  • 表:桟橋上部皮膜厚さ測定結果 拡大

    表:桟橋上部皮膜厚さ測定結果

    ※手摺③は、手摺①に対して乗船口に向かって左側を、手摺④は、手摺②に対して乗船口に向かって左側を測定している。
    ※方立③は、方立①に対して乗船口に向かって左側を、方立④は、方立②に対して乗船口に向かって左側を測定している。

2.3調査結果のまとめ

1)浜離宮庭園の船着場の立地環境条件は、海浜地域で海塩粒子に曝される腐食環境として厳しい環境です。
2)このような厳しい環境で 16 年経過しても、アルミ材の複合皮膜仕上げは、雨によるセルフクリーニングが行われる手摺や方立、案内板波板、風よけ目隠し板、船着き場側のルーバーでは腐食や変色などの劣化はほとんど認められず健全な状態を保っていました。
3)一方、雨の当たらない券売所側のルーバー、軒天では、特に建物側に近い程腐食が多く発生していましたが、その腐食の程度はRN 9、RN 8 であり、前回調査と比較しても腐食の進行は軽微でした。 海浜地域でなくても、一般にセルフクリーニングを期待できない部位では 10 年を超えると腐食は発生してきます。
4)雨樋の薄膜のアルマイト処理材では、第1回調査の経年4 年程度の短期間で小さな点食が認められ、8 年、12 年、16 年と経年と共にやや進んだ程度でした。
5)海塩粒子、海水飛沫の飛散する海浜域の環境には、亜鉛めっき鋼板や亜鉛ダイカスト製品の表面処理仕様について、再考する必要があります。

3.桟橋下部の構築物の調査

3.1 外観観察結果

  • 拡大

    図:柱脚部調査部位

表:柱脚Y1列及びY3列の外観観察結果 拡大

表:柱脚Y1列及びY3列の外観観察結果

1)柱脚
図に示す柱脚Y1 列及びY3 列の外観観察結果を右表に示します。なお、評価の記号の意味は以下の通りです。
総合評価 A:変化なく良好
B:軽度の外観変化(貝類の付着、油汚れがある)
C:著しい外観変化(表面に腐食、変色がある)
※汚れ、腐食、変色、ふくれ、はがれ、キズの有無 A:無 B:有

a)全般
16 年経過後の外観状況は過去3 回の調査結果と同様に、アルミ柱脚の全ての上部で腐食、変色、塗膜のふくれ、はがれもなく、貝類・藻類の付着も認められませんでした。また、海水に浸かる時間の少ないX2列及びX1 列でも同様の結果でした。
①腐食は、柱脚の下部で8 年目から散見されるようになり、経年と共に腐食が認められる柱脚の数は増え、16 年目では、柱脚の 63%に腐食が認められ、そのほとんどが X8 列~X5 列と海側に近い柱脚で発生していました。
②変色は、12 年目で柱脚の下部で目立つようになり、16 年目では柱脚の中央部及び下部と経年と共に増えていました。そのほとんどは、腐食と同様にX8 列~X5 列に集中していました。
③塗膜の欠損については、12 年目から柱脚の下部で認められ、そのほとんどは柱脚 X8 列及びX7 列に集中していました。
④貝類の付着は、第1 回調査時より柱脚の中央部及び下部に認められ、経年による変化はありません。また、 X1 列から X3 列まではほとんど認められず、X4 列の下部に貝類の付着が認められ、当然のことではありますが、海水に浸かる時間の長い X8 列~X5 列に集中していました。

  • 柱脚外観:左から(X1Y1)(X2Y1)(X3Y1)(X4Y1) 拡大

    柱脚外観:左から(X1Y1)(X2Y1)(X3Y1)(X4Y1)

b)異常腐食
アルミ柱脚下部の十字型形材エッジ部には異常腐食(浸食)が発生し、特に海水に浸かる度合いの多い X8 列、X7列に腐食(異常浸食)が多く観察されました。
船着場の鉄骨構造物の柱脚近傍に貝類付着が特に著しく、そして柱脚X8列のY1~Y4の柱脚下部のエッジ部から最大で95mmの浸食が生じていました。柱脚の平面部には約φ20mmの穴開け加工がされている箇所があり、穴側(切欠き部)からの浸食と柱脚のエッジ部からの浸食が繋がって一気に浸食が広がったと考えられます。また、同一箇所の比較ではないので単純に数値だけで比較することは出来ませんが、前回調査(12年経過時)時点での最大浸食深さが57mmであったことから、穴径φ20mmを差し引いてもこの4年間で約20mm浸食が進んだことになります。また、両サイドのゴミ除去スクリーンの柱脚の最大浸食深さは5~15mmとY1~Y4と比較し少なかったです。

  • 拡大

    柱脚X8 列下部の浸食の例

更にY1列についてX6列及びX5列の最大浸食深さを追加調査しました。最大浸食深さはX8列が最も大きく、X7列~X5列は同程度でした。また、X7列~X5列の最大浸食深さの発生位置(高さ)は、コンクリート基礎面(0mm)の位置で発生していました。
この柱脚の浸食は、乗船乗り場の渡り板(鉄板)を支える鉄骨構造物が海水に浸かり、X8列の近傍に位置しています。この鉄骨構造物と柱脚の間に電気回路が形成され、異常浸食(腐食)を起こしたものと推察されます。浸食の程度は鉄骨構造物(海側)に近い柱脚X8列及びX7列で著しいですが、鉄骨構造物から距離が遠くなるほど、この異常浸食は見られませんでした。このことから、大型鉄骨構造物からの距離が遠くなるほど電気化学的接触腐食電流作用の影響は受けていないと判断できました。

2)ゴミ除去スクリーン

  • 拡大

    ゴミ除去スクリーン

ゴミ除去スクリーンの上部は、飛沫帯と干満帯の上面に位置し、海水中に浸かっていない上部の外観には腐食、変色、汚れ、塗膜異常などはほとんど認められません。
中桟部材の上から下部に亘り貝類(フジツボ・牡蠣など)が付着しています。過去の調査では、貝類の付着が著しく、ゴミ除去スクリーンの下部には隙間が全く無くなる程に繁殖、成長していましたが、今回の調査では今までの調査より貝類の付着の程度は少なかったです。

3)筋交いアルミ材
位置によっては、上部にゴミの付着が見られました。海水に浸らない筋交いアルミ材の円形切欠き部(アルミ素地露出)は、灰黒の変色にはなっていますがピッティング(点食)は見られません。
海水に浸せきする円形切欠き部に、前回調査(12 年経過時)よりも更に腐食が広がっているようでした。

  • 拡大

    筋交い円形切欠部(海水に浸からない部位)

  • 拡大

    (海水に浸かる部位)

4)柱脚の筋交い接合部
アルミ押出形材の筋交い接合部には、ステンレス六角ボルトが用いられ、表面処理として「ディスゴ処理」が施されている接合部のステンレス鋼のボルト、ナット、そしてアルミ形材に 16 年経過した今回の調査でも腐食などは見られません。このことから、ステンレス鋼のディスゴ処理は、アルミとの電食防止効果を発揮していることが確認できました。

5)床下梁部のブレース・リブ、接続プレート、接合ボルト、ナット
床下梁部の接合部の状況を図に、赤さび発生状況を表に示します。
ボルト及びナットは第 2 回調査(8 年経過時)で全て赤さびが発生しており、今回の調査ではその赤さびの程度が更に進んでいました。
ブレース及びリブは、前回調査(12 年経過時)で赤さびの出現率約 27%であったものが、今回の調査では約98%とほとんどの柱脚で発生していました。赤さびの出ていないものも全て白さびが発生していました。
接続プレートは、上記のブレース及びリブと同様に、前回調査(12 年経過時)で赤さびの出現率約17%であったものが、今回の調査では約96%とほとんどの柱脚で発生していました。赤さびの出ていないものも全て白さびが発生していました。

  • 拡大

    図:床下梁部の接合部の状況

  • 表:床下梁上部接合部の赤さび出現率 拡大

    表:床下梁上部接合部の赤さび出現率

    ※表中の空欄は、赤さびが発生していないことを意味する。網掛けは観察できなかった部位。

これらの表面処理は、亜鉛めっき処理ですが、海浜地域の雰囲気において、Y1 列及びY3 列の接合部では、ボルト、ナット、ブレース・リブ、接続プレートのほぼ全てで赤さびが発生していました。
亜鉛めっきは海水中での腐食速度は100g ~ 200g/m2年ほどですが、海水中に浸せき後1 年以上になると腐食生成物のために腐食速度は半減します。逆に海水干満帯、飛沫帯では年 1000g/m2程になると言われています*)。
補修の難しい構造物の接合用の鋼ボルト、ナットに用いる表面処理としては、亜鉛めっき処理は、特に海浜域雰囲気に用いるには適当でないと考えます。
*)引用資料:(一社)日本溶融亜鉛鍍金協会ホームページ「溶融亜鉛めっきの耐食性(海水)」

3.2皮膜厚さ

1)柱脚
図 に示すX4Y1、X4Y3、X7Y1、X7Y3 の柱脚部材の各々8 面について上部及び下部の5 点を測定し、平均値を複合皮膜厚さとしました。
なお、表面処理仕様はJIS H 8602:2006(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化塗装複合皮膜)のB 種(陽極酸化皮膜9μm 以上+塗膜7μm 以上)です。
過去3 回の調査と比較しても経年による複合皮膜厚さの減耗は見られません。膜厚の分布でみると、汚れの固着によるものか、経年と共に膜厚が増加している場合も見られます。

  • 拡大

    図:柱脚部調査部位

ゴミ除去スクリーン斜め支柱 拡大

ゴミ除去スクリーン斜め支柱

2)ゴミ除去スクリーン斜め支柱形材
貝類付着の除去後の斜め支柱は外観状態からアルマイト(陽極酸化皮膜)仕上げで、2 本の支柱部材の皮膜測定結果は、部位の皮膜厚さに違いはほとんどなく、また16 年経過した現在でも膜厚の減耗は見られません。柱脚と同様に汚れの固着による原因か第3 回調査(12 年経過時)の膜厚は増加していました。

3.3 調査結果のまとめ
3.3.1 柱脚外観状況のまとめ

1)柱脚に腐食・ふくれ/はがれ/キズが「有(B)」と観察されたのは、縦列の X4 列~X8 列までの海水が常に浸る下部に限定されています。その程度は X5 列~X8 列で顕著です。横列の Y1 列、Y3 列での大きな差は認められません。変色や貝類の付着については、X3 列に若干観察されましたが、その程度は軽微でした。また、変色については、柱脚の中央部、下部において前回調査で「なし(A)」から「有(B)」になったものが比較的多く見られました。
X5 列~X8 列の柱脚に特異な浸食(異常腐食)が認められました。この現象は、前報に記載した乗船乗り場の鉄板を支える大型鉄鋼構造物が海水に浸り、柱脚のY1 列~Y4 列の近傍に位置しています。鉄鋼構造物の海水上部では著しい赤さびの発生が見られ、この鉄鋼構造物が柱脚と短絡することにより、カソード側となって鉄とアルミニウムの電気化学的腐食作用を起こす電気回路が形成されると、アルミニウムがアノード側となり異常腐食を引き起こしていると推察されます。
本調査後、SUS 株式会社で浸食された柱脚の強度の調査を行ったところ、未だ十分な強度を維持しており、構造上問題のないとの報告を受けています。

2)X1 列~X8 列の全ての上部は健全で腐食・変色・ふくれ/はがれ/キズなどなく、綺麗な外観を呈していました。これは表面処理仕様の適正さを示す指標となります。
柱脚上部が覆われている環境(軒天環境)では、湿気・ガス・海塩粒子及びその飛沫などの影響を受けてピッティングコロージョンの発生が見られる事が多いが、ここでは殆どその現象は観察されていません。

3)総合評価で「著しい外観変化(C)」は、そのほとんどが X5 列~X8 列の海水が常に浸る下部でした。横列のY1 列とY3 列では差がありませんでした。

4)フジツボ・牡蠣などの貝類付着は、海水が浸る部分に限られ、海水の飛沫などがかかる個所では 16年経過しても起こっていません。前回調査では、X3 列の柱脚下部のごく一部に貝類の付着が観察されましたが、今回の調査では、観察されませんでした。

5)劣化状況の腐食・変色・ふくれ/はがれ/キズの発現と牡蠣・フジツボなどの貝類の付着は必ずしもリンクしていません。

3.3.2 全般

1)「複合皮膜」処理されたアルミ形材は、海水飛沫帯、干満帯のいずれにおいても優れた耐食性を有していました。
2)アルマイト皮膜のみでも異種金属との接触がなければ、ゴミ除去スクリーンの斜め支柱のように、海浜地域、海水中で十分使用に耐えられます。
3)複合皮膜は、海浜地域で16 年経過しても皮膜厚の減耗は認められませんでした。
4)複合皮膜、アルマイト皮膜とも、海洋生物の付着(フジツボなど)が海水干満帯で見られました。フジツボ付着によって異常浸食が発生するとは認められません。
5)複合皮膜は海水干満帯、海水浸せき中でも海水耐食性に優れていますが、静電塗装でのエッジ部、コーナー部の塗着性の劣る塗膜厚さの薄い箇所から、海水中でアルミ露出部分より大きな面積の異種金属が存在すると、電気化学的接触腐食電流が流れアルミが異常に浸食されます。
6)海水中浸せき、干満帯で、アルミ形材切欠き部のアルミ素地露出面で、腐食や異常腐食の発生が認められました。
7)アルミ形材との接合部に用いられるステンレス製ボルトに鱗片状亜鉛積層エポキシ樹脂塗装処理を施すことで、電食防止効果が認められました。
8)接合ボルト・ナット、付属部材に用いる「亜鉛めっき」は、海洋雰囲気では比較的早く赤さびが発生してしまうので、再考する必要があります。

※掲載本文は、2023年6月に「一般社団法人 軽金属製品協会」によりまとめられた「海水干満帯域におけるアルミニウム構築物の耐久性に関する調査報告書(第4報)-浜離宮恩賜庭園船着場アルミニウム構築物の耐久性-」を抜粋したものです。レポート全文をご覧になりたい方は、こちらまでお問合せください。