美容院にぴったりな素材・アルミ

tsubomiでつくられた「はなれ」

スクリーン兼飾り棚として使われているグリッドシェルフ

設計、デザインを担当したのは戸谷悟デザインオフィスの戸谷悟さんです。戸谷さんが、ARRTY＠ARRTY那珂川店の設計の打診を受けたとき、まっさきに浮かんだことが「アルミを使おう」という思いでした。美容院は、髪やネイルのための染料を使う関係で、素材には耐薬品性が必要。傷みや劣化、汚れに強く、耐久性のある、しかも空間に馴染む素材ということでアルミという素材に注目したのです。当時の店舗設計の中の常識ではアルミを家具の素材に使うという発想はあまりなかったようですが、戸谷さんは早くからアルミに対して関心を持っていました。というのも戸谷さんは大のメカ好き、新しいモノ好き。日本ドローン協会・九州／山口支部長も務めているといえば、イメージしやすいと思いますが、メカが関係して、それが自身の仕事に生かせそうだと思うと何の迷いもなく突き進んでしまう性格なのです。昔からオーディオマニアでアルミのシルバー色に愛着のあった戸谷さんはいつか建築にもアルミを使いたいと情報を収集していました。ARRTY＠ARRTY那珂川店設計の際に、アイデアの引き出しから出してきたもの、それはSUSのグリッドシェルフでした。早速、戸谷さんはSUSに連絡、実物を見ようと、SUS九州事業所（佐賀県鳥栖市）に出向き、実際のグリッドシェルフを見学しました。このときに対応に当たったのが、当時、SUS九州事業所の所長だった村本増美さんです。村本さんからアルミのこと、アルミ押出材のことなどを聞き、戸谷さんはアルミに対する信頼を深めるに至りました。そして、ARRTY＠ARRTY那珂川店を「20年は改装の必要のない店舗」とする決意を固めたのでした。

ラチスパネルにはないアルミの可能性を求めて

tsubomiプロトタイプ

村本さんからSUSの製品を紹介されるなかで、戸谷さんに強いインパクトを与えた製品がグリッドシェルフ以外にもう1つありました。それが2005年に発売されたばかりのアルミニウム・スペース・パッケージング・システム tsubomiです。SUSはラチスパネルというアルミならではのシステムを開発し、それを使って建築をつくってきました。その１つの成果が、SUS九州事業所のエコムスファクトリー（工場棟）とエコムスハウス（モデルルーム）です。ラチスパネルは、アルミ押出材とアルミならではの接合方法・嵌合を用いたパネルであり、構造材としても使え、しかも押出材の織り成す模様が千鳥格子、なまこ壁といった和風の意匠を喚起させるため、意匠材としても使える活気的なものです。しかし、特に小規模空間に用いると、面積の割に使っているアルミの量が増えていまいますので、重く、かつ価格が高くなるといった問題が際立つ傾向がありました。そのことは、小規模店舗や小屋、離れといった建築にラチスパネルは向かないということを意味します。そこでアルミの使用量を減らして小規模空間を構成するためのシステムの開発が進められ、誕生したのがtsubomiでした。tsubomiもラチスパネルと同様、パネルで空間を構成するシステムです。パネル枠に使用するアルミフレームは、FA（ファクトリー・オートメーション）用のアルミ標準部材。これらを新しく開発したクロスジョイントにより結合し、ステンレスブレースを入れて剛性を確保した1m四方のパネルが、tsubomiパネルといわれるもので、これらを千鳥状に接合し、3m×3mの壁、屋根をつくり、空間を構成します。ラチスパネルは重量があるので重機を使わないと施工ができませんでしたが、tsubomiであればセルフビルドが可能。日曜大工感覚で組み立てることができます。なお、パネルの大きさを0.8m角や1.2m角にすれば、空間の大きさを変えることもできるのです。