ARRTY@ARRTY 3
構造材としても内装材としても、アルミの真価を再発見
「はなれ」のガラスが周囲の景観を映し出す
tsubomiだからこそできたシャープなガラスキューブ
戸谷さんはこのtsubomiを見て、漠然とした構想が一気に具体的なイメージへとまとまっていくのを感じました。というのも戸谷さんは、このARRTY@ARRTY那珂川店で、美容室とは別にリラクゼーションルームをつくりたいと考えていたからです。美容とは容姿を美しくすること、そのためには型を整えるだけではなく、心身ともにリラックスしてもらうことが必要であると考えた戸谷さんは、マッサージなどを行う非日常的な空間をtsubomiで提案することにしたのです。クライアントもこの提案には大賛成。外観デザインの鍵ともなるtsubomiは、このような経緯で実現に向け動き出します。ここでは用途を考え、1m角ではなく、1.2m角のパネルを使用。遮光フィルムを貼った3.6m四方のガラスキューブが出来上がりました。また、地面に置くのではなく、池の中央部にコンクリート打放しの支柱を立て、その上にtsubmiを設置することで、浮遊感を際出させるほか、キューブのコーナー部のエッジをシャープに見せることにも気を配りディテールをつめていきました。このシャープさは、12年後の今もまったく変わっていません。池は管理に手間がかかることから水が抜かれ、水面から立ち上がる感じはなくなってしまいましたが、浮遊感はむしろ増したのではないかと思います。竣工時と比べすっかり生い茂った植栽の中にガラスキューブが浮かんだ様がとても印象的でした。
対比の手法がアルミを際立たせる
今回、改めてARRTY@ARRTYを拝見させていただき、12年の歳月が流れたとは思えないほど、鮮烈な印象を放っていることに驚かされました。これは、設計者である戸谷さんの手腕、とくに「対比」を意識してデザインされたことが功を奏しているためです。母屋のコンクリートと離れのガラスとの対比、コンクリートとガラスといった工業材料と前庭の植栽との対比が、見る人にその存在を訴えかけてくるのだと思います。この対比の手法が使われているのは外観だけではありません。tsubomiのリラクゼーションルームの内装には、佐賀県の重要無形文化材である肥前名尾和紙が用いられています。ここでは、アルミ、ガラスといった素材と和紙の対比が、鮮烈な印象というよりも安心感を生み出していると感じました。母屋である美容室の内装にも、アルミだけではなく木をはじめとした自然素材が意識的に使われています。実際はSUSのアルミ製品のオンパレード、さながらショールームなのですが、金属の圧迫感がまったくありません。スタッフの方も、ことさらアルミを意識せずに使っていらっしゃるようでしたが、その理由はこのあたりにありそうです。ちなみに、アルミがこれだけ使われていることに不満はありますかとスタッフの方にお尋ねしたところ、マグネットを使った張り紙ができないので、それが困りますとだけ話してくださいました。
内装材としてのアルミのポテンシャルを再認識
美容室の内部は、清掃が行き届いているせいもあって、外観以上に美しさを保っています。設計時に意識された耐薬品性(耐食性)といった点においても、ここでアルミを採用いただいたことは間違っていなかったと確信できました。見る限り薬品による汚れや劣化などはまったく見て取れません。今回の訪問に同行していただいた設計者の戸谷さんもこのことに対しては大変驚かれていました。戸谷さんは見学を終えて次のように語ってくださいました。「アルミを使った内部の造作は、従来の木製の家具に比べ取り扱いが難しく、事前の設計段階での施工図のやりとりが通常の場合に比べて数倍かかります。そのため、イニシャルコストも当然かなりかかりますが、いったんつくってしまえば通常の改装サイクルの3倍は長く使えて、しかも、改装なり移転する際も、大部分の材料が設計の工夫次第では転用が可能。こんな素晴らしい素材は他にはあまり見当たらないと思います」。アルミ好きな戸谷さんをさらにアルミ好きにさせたARRTY@ARRTY那珂川店。アルミ建築の記念碑的な作品であることを改めて確信しました。