アルミ建築探訪

「金沢らしさ」を追求した国内最大のアルミ建築~思いやりの心をかたちに~ 

「金沢らしさ」を追求した国内最大のアルミ建築~思いやりの心をかたちに~ 

金沢市 金沢駅東広場

年間降雨日数が半年にも及ぶ世界でも有数の多雨多雪都市・金沢。
この地に、まるで傘のような大きなドーム型のアルミ建築が完成した。

 アルミとガラスによって構築されたきらびやかで巨大なドーム、その華やかさをグッと引き締めるかの如く佇む木製の鼓門(つづみもん)。基礎計画から12年の歳月を経て完成した金沢駅東広場、通称『もてなしドーム』は、金沢市の新しい玄関口として今年3月に竣工した。
 雨や雪が多い金沢を訪れてくれた人を傘で出迎える『もてなしの心』をコンセプトに設計された『もてなしドーム』。半径90mの強大な球の一部を広場中央の歩行者空間の形に合わせ、三味線のバチのように切り出した形状をしている。耐久性とメンテナンス性に配慮し、アルミニウム合金を構造に使用。屋根だけでなく壁面にまで「張弦材ハイブリッド立体トラス構造」を採用している点が特徴。広さ3000㎡、高さ29.5m、強化ガラス3019枚を用いた国内最大(世界的にも単純なドーム形式のものを除けば最大級)の巨大なアルミ建築だ。
 総工事費用172億円を投じてつくられた金沢の新しい顔は、委員会や懇話会を活用して広く知識を集め、市民の声を適切に反映させている。建設コンサルタントのトデック、鈴木良樹氏がプロジェクトマネージャーを務め、白江建築研究所の白江龍三氏が建築・意匠の担当として参加。一般市民が積極的に参加する委員会のあり方は、都市景観に敏感な金沢の特色の現れとも言える。

「金沢らしさ」を象徴する現代建築の代表素材

 意匠設計を担当した白江氏が、最初にクライアントから与えられた条件は3つ。「金沢らしさがあること」「バリアフリーが完全に実施されていること」「駅の機能がしっかりと確保できること」。この中で、一番捕らえにくかった条件が「金沢らしさ」だったという。そこでさまざまな「金沢らしさ論」が論議され、独創的な文化が展開される発祥ともなった「前田家」の存在にまで、話が遡っていった。
 「前田家が金沢に入って約400年が経ちます。そこから金沢という街は始まった。前田家は江戸幕府に対して、文化を振興していると知らしめるデモンストレーションとして京都や名古屋から文化を持ち込みました。その流れが現代まで脈々と受け継がれ、今の金沢を形成しています。そこで『前田家の人々が残してくれた事を、今のやり方で次の400年のために残してあげましょう。400年後まで残せる建築・施設をつくりましょう。それが金沢らしさにつながるのではないのでしょうか』という提案をしました」
 この意見は委員会や市民を含む懇話会でも受け入れられ、歴史的重層都市・金沢の『今』を象徴する建物づくりを目指して、現代の建築技術に関するさまざまな情報が集められ、美意識を反映してデザインされた。
 「現代らしさを象徴し、20世紀末の最先端技術を盛り込んだ建造物に…というコンセプトで検討が重ねられました。金沢という街の風情からいくと『木造』を想像しがちですが、敢えて金属やガラスといった近代建築の代表素材で構築する建築を考えました。そこで浮上したのが、アルミ立体トラスとスケルションの組み合わせによる『張弦材複合トラス構造』だったのです。永い耐久性と経済性(試算では65年でスチール使用経費を逆転する)などを考慮すると、アルミは大変優れた素材だと言えるでしょう。同じ構造でステンレスでも試算をしましたが、結果的には押出し形成の特性から目的に応じたパイプを生産できるアルミに軍配が上がりました。ステンレスとアルミは色目的には大差がないように感じましたが、リングとして使用したステンレスは黒く、アルミは乳白色の美しい色が出るので白いトラスの中に黒いリングが浮き出て、素材の色を生かしたデザインができました。そんなところも『金沢らしさ』につながるのかなとも感じました」

巨大なドームを支える最新技術

 金沢駅東広場の象徴とも言えるアルミとガラスによる大屋根の『張弦材複合トラス構造』について簡単に説明する。この巨大なドームは高さ6m、直径1.8mのSRCの支柱を24本設け、ワイヤーケーブルで補強したアルミドーム全体を支えている。
■アルミニウム合金立体トラス構造
 トラスとは各部材の接合点をピンで連結し、三角形の集合形式に組み立てた構造のこと。今回は、軽量かつ耐久性に富むアルミを使用している。湾曲力に強く、橋や屋根組みに用いられる。今回は、シンプルに見せるため、建具と構造体を一体化したので、中間入力のある特殊なトラスになっている。
■張弦梁構造
 トラス下に配置したテンションリングと、リングから放射状に延びた構造用ケーブルに張力を導入し、トラスとケーブルが一体となって安定状態に保たれる構造システム。テンションリングはステンレス製。リングの直径は12m、重さはおよそ12tある。
■スケルション構造
 左右に配置された構造用ケーブルに張力を導入し、風・地震の水平荷重時の変形を抑制する構造システム。

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    大屋根に施してあるアルミのパイプで作られた雪止めは千鳥格子に配置されているため、雪が降るとチドリの模様が浮き出るように設計されている。積もった雪さえもデザインする。雪化粧を楽しむ風情がある金沢ならではの設計だと感心させられた。

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    ステンレスによるテンションリング 色が黒く見える

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    立体のアルミトラス 基本グリッドは3m×3m×2m

建材としてのアルミに接した7年

 この建築を通して、アルミという素材の奥深さと面白さを大いに勉強させてもらった…と語る白江氏。7年以上の歳月を建材としてのアルミに関わった感想を最後に伺った。
 「当初は、梅干しで穴が開いてしまった昔のアルミの弁当箱から抜け出せず、錆びやすいと勝手に思い込んでいたんですよ。ところが実際に使ってみると合金によっては耐久性が高いものもありますし、なんといっても押出しで色々な型を、それも短いスパンで製作できる点が素晴らしいと感じました。しかも精度がスチールなどに比べて格段に高い。これからは、環境を制御する機械と表皮、それから構造が一体化したような建築を、アルミの可能性を生かして作っていきたいと思っています」

プロデュース:小堀為雄(前金沢学院短期大学学長/現、名誉学長)、水野一郎(金沢工業大学教授)
設計・監理:金沢市駅周辺整備課+トデック+サンワコン+釣谷建築事務所
総括:トデック(鈴木良樹)
建築担当:白江龍三(白江建築研究所)意匠及び建築総括を担当
構造担当:斎藤公男(日本大学教授)+構造計画プラスワン+佐々木構造設計事務所(地下基本)
防災及び設備:明野設備研究所+森村設計(基本)
法規企画:山崎建築研究室
ガラス技術協力:フィグラ
本計画では、計画検討のための懇話会、専門委員会を始め多くの委員会が開かれ、多くの先生方のご意見・ご指導をいただきました。
施工:清水建設、西松建設、治山社、豊蔵組、他、32JVに分離発注
アルミ構造体:住軽日軽エンジニアリング
張弦材:神鋼鋼線
ガラス:旭硝子、日本板硝子
一般金物・ガラス留め:三協アルミ
大樋:岸建販・YKKap・かなわ工業
清掃ロボット:三井造船メカトロニクス

※今回使用している写真には竣工前に撮影されたものも含まれております。ご了承下さい。

白江 龍三

白江 龍三(しらえ りゅうぞう)

環境建築家 昭和27年埼玉県生まれ。日本大学理工学部建築学科卒業。同大大学院博士課程前期修了。宇都宮大学大学院博士課程後期満期退学。㈱菅原建築事務所、㈱日本設計事務所(現:日本設計/フリーランス、嘱託等)、㈱エス・ディー・シーを経て、1988年白江建築研究所設立。エコロジー技術やハイテク技術を使って、地球環境に配慮した建築の設計を続けている。日本建築学会賞作品賞(日本設計時代の作品:東京都多摩動物公園昆虫生態園の設計について3名の連名で受賞)、免震構造協会賞作品賞、JIA環境建築賞、グッドデザイン賞、BELCA賞、日経ニューオフィス賞、グリーングッドデザイン賞(米国)など受賞。本記事の金沢駅東広場設計でもアルプロケットアワード2006(イタリア)、シカゴアテナウムミュージアム2007インターナショナルアーキテクチャーアワード(米国)など複数の賞を受賞している。また、取り組んだ複数の省エネシステムがNEDOの補助対象になった。
日本大学理工学部非常勤講師、前橋工科大学工学部非常勤講師、㈱日建設計代表付き等を経て、現在は前橋工科大学大学院非常勤講師