アルミハウスプロジェクト

「SUS・アルミハウスの構築された姿」— その2

アルミハウスプロジェクトの開発成果を報告するとともに、SUSのアルミハウス・プロトタイプを詳述します。最後に、アルミハウスの住宅市場参入における基本的な考え方をまとめます。

SUSアルミハウスの目指す姿

図-1 :SUS・アルミハウスの目指す姿 拡大

図-1 :SUS・アルミハウスの目指す姿

 前号「SUS・アルミハウスの構築された姿—その1」では、アルミハウスプロジェクトの基本方針、アルミハウスの定義などをまとめました。SUS・アルミハウスは、単なるアルミ造のハウスを超え、アルミ、ハウス(住宅)それぞれの性能、機能を際立たせた「アルミ+×(加・乗)ハウス」(以下、アルミ+×ハウス)であり、新たなる居住空間、居住スタイルを創造すると記しました。
 「SUS・アルミハウスの目指す姿」(図-1)にあるように、「アルミ+×ハウス」は、ハウス(住宅)としての基本的な性能、機能と、循環型社会、ストック型社会、少子・高齢化社会、CO²排出抑制・地球温暖化など(前号・表-3を参照)、現在の時代、社会から要請される性能、機能に加え、アルミの持つ住宅建材としての有利な性質を活かした付加価値を併せ持ちます。また、アルミには住宅建材としての不利なハウス(住宅)としての基本的な性能、機能を妨げます。これを解決することはもとより、発展的な解決によって住宅としての性能、機能をより向上させなければなりません。

アルミの持つ住宅建材としての不利な性質の発展的な解決

 アルミの持つ住宅建材としての不利な性質は、「SUS・アルミハウスの目指す姿」(図-1)に示す5つです。
①アルミの融点は660度であり、アルミ建築は耐火性に劣ります。
②熱伝導がよいことは、いわゆるヒートブリッジの原因となり、室外に露出しているアルミ材が室内の部材と結合していると熱侵入が起こり、室温管理が極めて困難になります。
③縦弾性が小さいため、同条件の鉄の梁と比べると大型化し、単純な押出形状では単位長さ当りの重量が大きくなり、その割には剛性が得られません。
④熱膨張が大きいことによる変形は、建築構造上で配慮する必要があります。さらに、アルミ部材の伸縮による結合部での軋み音は、住生活に違和感をもたらします。
⑤音伝達がよいことは、住宅の防音性能に支障をきたし、また、前項の軋み音を住宅全体に響かせてしまいます。
 これらの5つの性質のうち②「熱伝導がよい」に対して、SUS・アルミハウスでは外断熱を採用しました。アルミ構造材を外壁材で被覆すると、アルミストラクチャーが露出せず、アルミ素材の美しさやアルミストラクチャーの力強さを表出できないことになります。けれども、居住環境の快適性を確保することを二者択一で優先し、断熱性の高い外壁パネル、屋根パネルを開発しました。それらのパネルは、不利な性格④「熱膨張が大きい」によるアルミ構造体の伸縮を防ぎ、構造体での軋み音防止の効果も期待できます。さらに、耐火性能、防音性能の付加によって、不利な性格①「融点660度」、④「音伝達がよい」を補うことが可能になります。現在、この外壁パネル、屋根パネルは進化し、t²にも採用される予定です。
 残った不利な性格③「縦弾性が小さい」に対しては、31号の表紙にある、小型型材を複合接合したトラス梁(梁背750/500/250 mm)を開発しました。小型の押出材をリベットで結合し、軽量でより大きな断面剛性を確保することができます。梁背500mmのトラス梁は、屋根加重のみであれば8mの梁間を実現します。トラス梁は、エッフェル塔の構造材を彷彿させる軽快さを持ち、よって露出天井に映え、3台駐車のガレージにおいては8mを無柱とし、デザイン性、利便性を高めます。

「アルミ+×ハウス」を実証する:
アルミの持つ住宅建材としての有利な性質からの創造

 前段で、アルミの持つ住宅建材としての不利な性質の解決、それに伴う住宅としての性能、機能の向上を述べましたが、それだけでは、住宅をアルミ造とするには十分ではありません。さらに、「アルミハウスにおける現在の時代、社会の要請への解答」(前号・表-3)に示すように、建築構造用の建材として比較的新しい素材であるアルミは、現在という時代や社会にふさわしい建材であるかもしれません。しかし、アルミハウス以外の構造、構法の住宅も、それらへの解答を模索し導き出しています。したがって、アルミの持つ住宅建材としての有利な性質によってハウス(住宅)に価値を付加しなければ、住宅をアルミ造とする意義が見出せません。
 アルミハウスプロジェクトでは、アルミの持つ住宅建材としての有利な性質による付加価値向上を実証するために、「アルミ+×ハウス」のプロトタイプを練っています。プロトタイプでは、次の3点の実現を指向しています。


1 ユニバーサル・スペースであること
軽量で、耐食性に優れ、精密なアルミがユニバーサル・デザイン「公共性、自由度、簡単さ、明確さ、安全性、持続性、空間性」を備えるスペースを創出します。

2 メタモルフォシス(変形、変態、変容)であること
機械のように部分、あるいは全体が「動く建築」や、機械の部品交換のような「増減改築、修理」、機械の組立・解体のような「新築・取り壊し」は、アルミのリユース、リサイクルまでも含め、100年、200年に耐えるメタモルフォシスといえます。

3 緑住のスマートハウスであること
アルミの美しさ、緑との相性によるアルミハウスと緑との共生、その生活とともに、緑を含めたエコロジーを基本に自律したスマートハウス「住宅は住むための機械」を実現します。

これらの指向を実現するため、プロトタイプには、アルミハウスに欠くべからざる建築形式、部品・システムが考案、開発されています。主なものは以下のとおりです。

1 高床( ピロティ)式
アルミハウスのプロトタイプでは、平屋建てを主体として考えていますが、アルミ押出材の円柱4本で構成されるVコラム(開発)で軽量な家屋部を支え、ピロティ、半地下空間をつくります。この利点の第一は、絶対的な水平面であるプラットフォームを形成することです。アルミハウスという精度の高いアルミの箱を水平面上に載せることで、その精度が保たれ増進します。さらに、半地下空間のパーキング利用、床下での外断熱、地中の湿度からの解放、床下の通気・設備配管のメンテナンスなど、多くの利点が挙げられます。

2 大屋根と二重屋根
耐食性を持ち、光、熱を反射するアルミは、もっとも直射日光を受け、堅牢さを求められる屋根の材料として最適です。さらに、アルミで大屋根をつくることによって、定期的なメンテナンスがしやすく、トラブルの場合には容易に葺き替えることができます。ソーラーパネル、温水パネルなどの簡便な設置を可能にするためにフラットとし、それらの架台で二重屋根にもします。フラットで二重の大屋根は、軒を出さないことによって、アルミハウスに独自のフォルムを与えます。

3 縁の空間
軒の出のないアルミハウスの軒下の代わりとして、壁や屋根に囲まれない外部空間「縁の空間」を設けます。これは、アルミの性質がもっとも有効に活用されているルーバーによって形成されます。「縁の空間」は、居住空間の多様化、室内外からの視線のコントロール、そして防犯に役立ちます。さらに、住宅のファサード・デザインに深みを持たせます。


ユニバーサル・デザイン(ロナルド・メイス氏提唱)
1)公共性 ; Equitable Use
2)自由度 ; Flexibility in Use
3)簡単さ ; Simple and lntuitive Use
4)明確さ ; Perceptible lnformation
5)安全性 ; Tolerance for Error
6)持続性 ; Low Physical Effort
7)空間性 ; Size and Space for Approach and Use

SUSのアルミハウスにおける住宅市場での位置づけ

 現在の住宅市場では、「量の確保から質の向上へ」、「リーマンショック、東日本大震災、ユーロ危機による景気の先行き不安による住宅着工戸数の減少」と大きな変革が起きています。近年の新築一戸建て住宅30万戸前後は、築30~ 35年の建替え需要と団塊ジュニア(新人類)の新築需要によります。そこには、建替えにおける高い居住性への欲求と若年層の新たなる要望が顕著です。さらに、単独世帯、夫婦世帯の増加や高齢者で増加する1人、2人世帯の増加によって、従来のnLDKを基本とするプランは解体され、個室の孤室化、ダイニングルームの変質、リビングルームの機能喪失など、新たなるライフスタイルが出現しています。すなわち、戦後の日本の住宅政策や民間の住宅建設の流れとは別に、新しい標準化住宅が必要とされているのです。
 このような状況は、アルミハウス、そしてSUS・アルミハウスにとって、住宅市場への参入の好機と考えられます。参入を円滑に実現するためには、2つの施策が不可欠です。第1は、アルミハウスの価格を一般的な住宅より抑制し、割高感をなくすことです。海外での生産、組立に加え、工場での合理的な生産によって建築部材費と製造費を低減します。また同時に、プレファブリケーションにより工期を短縮し、施工費を縮小します。販売方法においては、リユース、リサイクルというアルミの再活用を基にした下取り制度を考えています。これらに加え、住宅需要者に、アルミハウスの高品質や高機能、そして長寿命への理解を深め、トータルとしてコストパフォーマンスがよいという意識を醸成し、その割高感を払拭します。
 次には、アルミハウスを市場参入させるための最低のインフラを整備します。まず、アルミハウスのプロトタイプをアルミ構造材、締結部材、外装材、内装材などの部品に分解し、標準部材として用意することが必須です。それらに関するディテールの図面集、構造設計マニュアルを作成します。さらに標準部材や建材のカタログ、設計資料を、そしてアルミハウスの構造解析ソフトも用意することを考えています。
 SUS・アルミハウスを1日でも早く発表できるように、これからもアルミハウスプロジェクトを推進します。