いまを生きるアルミ建築

ココスガーデン2
ラチスパネル工法が作り出す
新しい建築スタイルのあり方

ココスガーデン2
ラチスパネル工法が作り出す
新しい建築スタイルのあり方

ココスガーデン設計に携わった 建築家 佐野正樹氏に聞く

今回、『ココスガーデン』の設計を一任された「山本理顕設計工場」元のスタッフで、現在福岡市内に事務所を構える佐野正樹氏。新工法による一般建築第1号であるのはもちろん、開発者の手を離れ、別の建築家がラチスパネルを全面に使った建物を設計するという点に、大きな注目が集まりました。

― ラチスパネルについては以前からご存知でしたか。

 山本さんがアルミ建築のプロジェクトを立ち上げたとは伺っていましたが、実際には昨年3月の九州アルミ建築セミナーで知りました。

― 実際にラチスパネルを使ってみての感想をお聞かせください。

 まずは工期の短さ(約2ヶ月)に驚きましたね。それから設計者の役割が変わると感じました。敷地の活用の仕方、配置、眺めなどから考えていく従来の役割が、モジュールが決められたラチスを使用することで根底から変わってくる。新しいスタイルの建築であると実感しました。

― モジュールが限定された建築でやり難さは感じませんでしたか。

 いえ、思った以上にやりやすかったです。今回は店舗でしたので、敷地を有効に活用し、出来るだけスペースを作るということだけを考えて設計すればよかったからかもしれませんが、今度はぜひ住宅のプランも考えてみたいと思いました。

― 通常の建築とラチスパネルを用いた建築、どこが一番違いましたか。

 プレハブ工法のため、工場で作られている部材の製造ラインと現場の組立てペースが噛み合わず、工程イメージを掴むのが大変でした。今までは「基礎の次は何…」と流れを把握しやすかったのですが、今回は工場で何が行われているのか現場ではわかりにくく、少々不安でした。お互いの状況を常に把握し、すり合わせをしていく体制をきちんと整える必要があると感じました。

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    仕上げ工事(11/24~12/15)

― アルミ建築は基礎工事が難しいと聞きますが、いかがでしたか。

 基礎は現場作業なので、どうしても誤差が粗くなる。しかし上に乗るアルミの躯体は誤差1~2mmという精度ですから、その2つをジョイントするアンカーボルトの位置が2mmでもずれていると穴が合わない。非常に気を使う作業でした。

― アルミ建築の基礎工事に対して改善すべき点はありますか。

 アンカーボルトの入る穴に遊びを持たせて、それを標準として施工できるような作り方にしておけば、誰でも扱えるシステムになっていくのではないでしょうか。残念ながら現段階では、誰にでも建てられるというものではないですからね。

― ラチスを使ってみて、他にどんな可能性があると感じましたか。

 木材のブレースのように木のフレームにラチスを接合して耐力壁としても使えるのかなと話していました。ただし『建材金物』としての法的認可が必要になる。然るべき機関に測定を依頼して実験結果と共に申請すれば、認可は下りるでしょう。そうなれば使用範囲は大きく広がりますね。

― 『アルミ建築』がもっと普及するために必要な課題はありますか。

 やはりコストでしょう。使ってみたいけど、予算が合わなくて断念するという建築家はたくさんいます。このハードルをクリアできると、普及も進んでいくと思います。またリサイクル性の高さは、これからの建築を考える重要なポイントです。仮設建築やリースなど、今までの常識にとらわれない新しい建築スタイルに、アルミは欠かせない存在になっていくのではないでしょうか。

ココスガーデン全行程紹介

1 基礎作業(10/13~10/28)

基礎は施工性を考え、マットスラブとして設計。捨てコンクリートには差し筋を行い、アンカープレートは溶接にて所定の位置に固定。アルミの工場加工精度と現場作業の誤差を最小にするため、アンカーの位置出しには細心の注意が必要。またアルミの腐食を避けるため、コンクリートに接する面にはジンクロメート錆止めペイントを塗布。

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    捨コン打設後、所定の位置にアンカープレートを溶接にて固定する。

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    基礎コンクリート打設、形枠を解体。

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    アンカープレートをかわしながら、マットスラブの配筋を行う。

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    水平・垂直方向のレベルの微調整をしながら柱脚形材をセットする。

2 ラチスパネル組立(10/29~11/3)

柱脚形材施工後、ラチスパネルを1~4段まで組立。1段ずつラチスパネルの仮締めを行い、施工が進むにつれ誤差が大きくならないように必ず各段ごとに水平・垂直方向のレベルの調整を行う。2段目以降はあらかじめラチスパネルに縦枠・コーナー枠、上部の十字接合材を取り付けておき、セット後の取付作業を最小限にとどめる。

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    ラチスパネルを柱脚形材にセットし、下から順に高力ボルトの仮締めを行う。

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    南側庇のブラケット用金具を縦枠と同時に取り付ける。

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    2段目以降は、地上で縦枠・コーナー枠を地組みした後に十字形材を使って接合する。

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    高力ボルトの1次締めは50N・mで行い、さらに90°回転させて本締めとした。

3 折版・床版取付け(11/4~11/18)

4段目下端の高力ボルトまで本締めを行い、その後地組みした梁ユニットの取付けをおこなう。床版ユニットは所定の位置に並べ、ユニット同士は接合材を用いてビス止めにする。折版に直行する側の端は中ボルトで固定し、その際ブラインド用のブラケット、2階アルミアングル巾木を共締めにする。屋根面も同様に施工する。

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    ラチスパネルを4段目まで組み上げた後、あらかじめ地上で組み立てておいた梁ユニットを架け渡す。

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    これまでの手順を繰り返し、ラチスパネル5、6段、2階天井の折版を組み立てる。

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    折版ユニットを所定の位置に並べる。折版ユニット同士は接合材を用いてビス止めする。

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    折版の上に床版をビス止めし、床下地、垂木などは床版に取付を行う。

4 外壁取付け、内壁組立(11/19~12/15)
垂直・水平方向ともに構造が固まると、スキンとしての外壁の取付けを行う。外壁面としてはアルミ断熱パネル、突出し窓、網入ガラスの3種類が用意され、設計者の意図や設計条件に応じて自由な位置に取付けを行うことができる。ラチス構造から独立した内壁を組み立てることで、各プログラムに応じた空間を内部に計画することができる。

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    アルミ断熱パネル、突出し窓、網入ガラスの3種類の外壁面を押縁にて取付け。

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    内壁施工後の1F店舗(ココスガーデン)を見渡す。

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    南側庇のブラケットとアルミ断熱パネルとの取合い。

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    外構を残してほぼ竣工。屋外階段ユニット裾付けのため、西側の壁面は他の外壁に先行して施工を行った。

データ
名称:ココスガーデン東公園店
所在地:福岡県福岡市東区馬出
主要用途:物品販売業を営む店舗
竣工:2004年12月
敷地面積:129.88㎡
建築面積:80.44㎡
1階床面積:70.98㎡
2階床面積:70.98㎡
延床面積:141.96㎡
構造:アルミニウム合金造、地上2階

佐野 正樹

佐野 正樹(さの まさき)

1967年 沖縄県生まれ。1990年 九州芸術工科大学芸術工学部工業設計学科卒業。1992年 同大学院芸術工学研究科生活環境専攻修了。近畿大学九州工学部非常勤講師を経て、1999-2001年 Berlage Institute Amsterdam在籍。2001-2002年 山本理顕設計工場。2003年 AL architects設立。