アルミ素材学

01「反射特性」について学ぶ

主に構造材として使われている「アルミニウム」ですが、工業材料として実にさまざまな特性が秘められています。アルミニウムの持つ優れた「素材特性」を毎号1つ取り上げ、その成り立ちから学び、身近にあるアルミニウムの特性をより深く理解していく「アルミ素材学」の連載をスタートします。第1回目は「反射の仕組み」からアルミの特性を学んでいきましょう。

「反射特性」 について学ぶ

よく磨いたアルミニウムは赤外線や紫外線などの光線、通信機から発する電磁波、さらに各種熱線をよく反射します。
純度の高いアルミニウムほどこの性質は優れており、純度99.8%以上のアルミニウムは放射エネルギーの90%以上を反射します。この特性を生かしたのが暖房器の反射板や照明器具などで、鏡面加工を施し、反射特性を一層高めたポリゴンミラーなどは、光エレクトロニクスで幅広く活躍しています。(※日本アルミニウム協会「アルミニウムとは」より)

ものが見える仕組みと反射について

私たちの身の回りで、ごく当たり前に生じている反射という現象。これは光が鏡などの物体の表面に当たり、跳ね返ることで起こっています。この光の反射には、法則があることをご存知でしょうか。反射するものに対し、光の入る角度と跳ね返って出て行く角度が同じになるという現象は「反射の法則」と呼ばれています。

そもそも「見える」というのはどういうことなのでしょうか。普段私たちが見ている物体の姿は、光がその物体に当たり、反射した光が目に入ったものなのです。例えば朝、カーテンを開けると太陽の光が差し込み、外の景色が見えます。反対に真夜中に真っ暗な部屋の中では何も見えません。このように「見える」というのは、物体に当たった光が跳ね返って目に入ってくるということなのです。

「鏡に映る」とはどういう現象?

私たちが普段、「鏡」と呼んでいるのは物体に当たった光が一方的に跳ね返る「鏡反射」のことです。これらは全反射(ほとんどの光を跳ね返す)する性質を持った物体で、ガラスや金属など光を反射しやすい材料でできています。ちなみに鏡に映る像は、鏡に対して対象の位置に映ります。Aから来た光はまるで鏡の向こうから発せられているように見えます。これが「鏡に映る」という現象です。なお、鏡に映っている像は「虚像※」といいます。
※虚像
物体から出た光線が鏡やレンズなどによって発散される時、その発散光線によって実際に物があるように結ばれる像。

金属はなぜ反射するのか?

金属の表面はなぜ、ピカピカと反射しているのでしょうか。それは金属が電気を通すことに関係しています。金属とは原子が集まってできたものです。金属原子がたくさん集まると、「価電子」を放出し、正電荷を帯びた金属イオンになります。金属原子から飛び出した価電子は、原子核の束縛から解き放たれ、金属中を自由に移動できるようになります。これを「自由電子」といいます。自由電子に電圧をかけると電子はマイナスなので、プラスの方向(陽極)に移動し、電気が流れることになるのです。
アルミニウムは原子番号13の元素。金属だが非常に反応性が高く、可視光線のほぼ99%、赤外線のほぼ95%を反射する。アルミニウムは酸化アルミニウムの被膜ができても、反射率はほとんど低下しない。

金属の表面に光が当たると、表面のごく薄い層に存在する金属イオン、および自由電子が光のエネルギーを吸収し、共鳴振動※を起こします。自由電子はプラズマ振動という特異的な振動を起こし、光と同じ振動数の光を再放出します。これにより、光は自由電子に遮断され、金属の中に入っていくことができず跳ね返されます。これが「金属光沢」、つまり「光の反射」を生じさせます。その反射が可視光線全域で起こればすべての波長の光を反射するので、鏡のようにピカピカになるのです。
※共鳴振動 
物体が、外から与えられた振動をキャッチして、振動したり音を出したりする現象。

金属に色がつく理由は?

金属の色は、光の反射が可視光線のどの波長領域で起こっているのかによって決まります。金属が光沢を持つのは光が自由電子によって跳ね返されるためですが、プラズマ振動数より大きな振動数の光は金属の中に入っていきます。プラズマ振動数は金属の電子密度によって異なるため、金属によって反射する光の波長範囲が変わります。金属の中に入った光は原子核に束縛されている電子に吸収されます。原子核に束縛されている電子の状態は金属の種類によって異なるので、吸収される波長が異なるのです。

反射率を光の色で表すと、銀は赤98%、緑98%、青97%ですべての波長において反射率が高く、鏡のように見えます。アルミニウムは赤90%、緑91%、青92%です。銀に比べると反射率は若干劣りますが、それぞれの色で均一に反射しています。 アルミニウムや銀は可視光線全域の波長の光をよく反射するので表面の色が銀白色になります。銀やアルミニウムが鏡の材料に使われるのはこのためです。
出典4:光と色と「金属の光沢と色」より

光と反射に関する専門用語解説

1.可視光
可視光とは人間の目に光として感じられる波長を持った電磁波のこと。単位はnm(ナノメーター)。太陽光やランプの光など、目に入って明るさを感じさせる光を可視光と呼び、紫外線や赤外線などの目に見えない光と区別している。

2.正反射(鏡面反射)
光沢のある面では光源の映り込み現象が起き、明るく光って見える。これを正反射(鏡面反射)という。入射光の角度に等しい角度から見た時に最も明るく見え、視点の角度がずれるにつれ、急激に明るさは低下する。

3.拡散反射(乱反射)
多くの物体の表面はつや消しのような状態に見える。これは物体の表面に細かい粗さがあるため、当たった光はあらゆる方向に拡散する。このような状態を拡散反射(乱反射)という。

4.全反射
正反射と拡散反射を足したもの。一般的に反射率(光を反射する割合)とは、全反射率のことを指す。

アルミの反射特性を生かした製品提案

ここからは、アルミの反射特性を大いに生かし、事業を展開する企業をご紹介します。太陽から降り注ぐ自然の光を照明のように室内へと取り込めたら、どんなに心地よいことでしょう。そんな快適空間を創造し、アルミを用いてさまざまな製品開発に積極的に取り組んでいるのが株式会社マテリアルハウスです。

アルミの反射特性を生かし自然光を室内へと導く「光ダクト」

アルミや銅、ステンレスなど非鉄金属の卸問屋として事業を拡大する中、取扱材料のひとつとしてドイツのalanod社※が製造する高い反射性能を持ったアルミ材と出会ったことで、マテリアルハウスに大きな転機が訪れました。
「もう20年以上前のことになります。当時の複写機(コピー機)には蛍光灯がついており、性能を高めるためにはこの蛍光灯の光を強く反射できる精度の高い鏡面板が必要でした。何かよいものはないかというクライアントからの要望を受け、出会ったのがalanod社の「Miro」という全反射率95%の高反射アルミ材でした。この「Miro」を用いてアルミの反射性能を生かしたオリジナル製品を自社で開発できないだろうかと考え、光の反射に関する研究に着手。1997年には、沖縄県庁地下駐車場に国内初の“光ダクト照明装置”を納入させていただきました」(代表取締役社長 新井秀雄氏)。
“光ダクト”とは自然光を反射の連続で室内へと運び、そのまま照明として使うマテリアルハウスが考案した採光システムです。alanod社の「Miro」を用い、明るく健康的な自然光を建物内部に取り込むことができます。しかも、自然光から有害な紫外線のみをカットし、室内に届けることができるというのです。


※alanod社
1975年に設立。アルミニウムコイルの連続陽極酸化処理を開始し、1986年には陽極酸化処理の分野においてヨーロッパマーケットのリーダーに。1980年代後半には日本市場に進出を果たす。1994年に全反射率95%を達成した「Miro」を、1998年には全反射率98%を実現した「Miro Silver」を発売。連続陽極酸化処理と、真空蒸着の分野において世界トップシェアを独走している。

通常の純アルミの反射率をより高めるための工夫

一言でアルミ材といっても種類は実にさまざまですが、反射率が高いのは純アルミと言われる1000番台(1000系)のアルミ合金です。
「私たちが使っている反射材は、アルマイト処理を行ったアルミ基材(純アルミは軟らかく弱いので、芯材の表面に1000系のアルミを貼り合わせたクラッド材※1が用いられている)に、アルミの反射膜を真空蒸着※2させたものです。封孔処理は行わず、あえて表面に孔が開いている状態で反射膜を載せています。こうすることで、より密着度が高まるのです。その上にさらに2層の金属酸化膜を載せ、表面の保護と反射率のアップを図っています。可視光帯域での反射率が上がるように、さまざまな工夫と調整が施されており、理論的にも解明されています。膜圧についてはたくさんの文献も出ており、純アルミと真空蒸着の特性をうまく組みあわせた技術だと思います(新井氏)」。

暑くもまぶしくもない光ダクトしかも紫外線カットそれはなぜ?

トップライトというと日光が差し込む開放感あふれる空間をイメージできる反面、直接日差しが当たり暑いのでは・・・と思う方も少なくないと思います。
「確かにトップライトは直接日光が差し込むので季節や時間帯によっては暑く、まぶしくなることは避けられません。光ダクトのオプションで“フラット採光装置”というものがあるのですが、これには光の入射量を1日、そして1年を通して一定にするための工夫が施されています。装置による光の追尾や制御を用いず、固定した反射鏡の角度調整だけで採光量を調節できる技術です。朝夕や冬は入射量を増やし、昼や夏場は入射量を抑制できるよう角度を研究した特殊な反射鏡を開発しました。当社は豊富な知識と経験を下に、採光に関する構造分野で17の特許を取得し、太陽光を常に安定確保・供給できる技術を持っているのです(テクニカルセンター 技術・デザイン 杉山 徹氏)」。

反射がもたらす光のシャワーアルミパネルでこれまでにない空間を

ここまでに紹介した「光ダクト」「フラット採光装置」以外にも、光の拡散反射を利用した製品がマテリアルハウスには数多く存在します。例えば、木漏れ日のような光を広範囲にもたらす「スカイシャワー」、照明との組み合わせで平面に奥行きをもたらすアルミ化粧板「LEUXパネル」など、これまでにない空間を演出する新しい発想ばかりです。

こうした商品の開発からデザインまでを手がける杉山さんに製品のコンセプトと商品化までのご苦労について、お伺いしました。

「開発のベースとなるキーワードは省エネ、快適性、健康です。自然光が相手なので、同条件の光を扱うということはありえません。模型で何度も実験やシミュレーションを行ってから建築物に組み込むのですが、現物になってみないとわからない点も多く、その調整が難しいと感じます。ビジネス面から考えると、やはり省エネに関する提案がメインとなりますが、アルミの反射という特性が生み出す“美しく快適、かつ不思議な空間”という、これまでにない意匠性の高さを積極的に打ち出し、付加価値をアピールしていきたいと思っています」。

スカイシャワー
トップライトの直下や光ダクトの放出部に取り付けるだけで、入射した光を拡散させることができます。木漏れ日のような光が広範囲にわたって空間全体に広がり、明るさを持続します。また光の模様を消して拡散効果のみを得て使用することも可能です。

LEUXパネル
照明との組み合わせで奥行きや天井高を自由に演出する金属化粧板「LEUXパネル」。フラットな壁や天井に取り付け、照明を当てると驚きの空間が現れます。「光をあやつる」という言葉がぴったりの新感覚な空間演出に最適です。

※1 クラッド材 2種類の性質の違う金属を張り合わせた鋼材。原子レベルで圧着しているため、めっきのように剥がれたりしないのが利点。
※2 真空蒸着 真空中で金属や金属酸化物などの成膜材料を加熱し、溶融・蒸発または昇華させて基材や基板の表面に粒子(原子・分子)を付着・堆積させ、薄膜を形成する技術。
出典5:尾池工業「薄膜をつくるには」より

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    細かいスリットが光を拡散反射させるLEUXパネル

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COMPANY DATA
株式会社 マテリアルハウス
〒146-0081 東京都大田区仲池上1-19-3
http://juniorhighschool-science.net/

SOURCE
1.中学生理科の達人「光・音・力と圧力の達人」
http://juniorhighschool-science.net/
2.中学理科 自主学習支援サイト
「りかちゃんのサブノート」
http://www.max.hi-ho.ne.jp/lylle/
3.キリヤ化学
http://www.kiriya-chem.co.jp/キリヤ色と化学のq-a
4.光と色と
http://optica.cocolog-nifty.com/blog/
5.尾池工業株式会社
http://www.oike-kogyo.co.jp/
6.バイオウェザーサービス
http://www.bioweather.net/

SUMMARY
いかがでしたか?アルミの反射特性を生かした製品は、他にも分析機器や医療機器、各種計測器といった分野から、コンパクトディスク(CD-ROM)など、私たちの身の回りのあらゆる場面で使用されています。次回以降もアルミの特性の1つをテーマに掲げ、身近な話題と連動させた内容でご紹介していく予定です。