アルミ素材学

02「熱伝導」について学ぶ

アルミの工業材料としての特性を深く掘り下げる「アルミ素材学」。2回目は「熱伝導」について考えていきます。熱伝導率の高さから、さまざまな工業製品や生活用品などに使われているアルミですが、「熱伝導」とは物質におけるどういった現象を指すのかご存知ですか?前回同様に、小学校・中学校で習った「理科」の知識や実験をベースに熱伝導の仕組みを学んでいきましょう。この特性を巧みに用いた話題のプロダクトも必見です。


「熱伝導」 について学ぶ

アルミニウムの熱伝導率は鉄の約3倍。熱をよく伝えるということは急速に冷えるという性質にもなります。そのため冷暖房装置、エンジン部品、各種の熱交換器、ソーラーコレクター、飲料缶などにもこの特性が生かされています。また最近では高密度化した機器、システムの過熱防止のための放熱フィンやヒートシンクとしても使われています。この性質を利用して、プラスチックやゴムの成形用金型などの新分野にもアルミニウムが使われています(一般社団法人 日本アルミニウム協会「アルミニウムとは」より)。

熱の伝わり方には「伝導」「放射」「対流」がある

熱(以下、エネルギー)の伝わり方は、①伝導 ②放射 ③対流の3つに分類されています。それぞれがどのようなメカニズムでエネルギーを移動させているかを、まずは理解していきましょう。

①伝導
高温物体が熱伝導物質(主に固体)に直接接触することで原子・分子の運動エネルギーがリレーをしながら伝わっていく現象。
(例:使い捨てカイロを持っていると指先が温まる)
②放射
高温物体を構成する原子・分子の熱運動によって生成する電磁波(可視光もこの仲間)が空間を伝わってエネルギーを運ぶ現象。エネルギーを受け取る側には電磁波の振動数で共鳴する性質を持った原子・分子が必要。
(例:太陽に照らされて海岸の砂が熱くなる)
③対流
ほとんどの物質は温度が高くなると原子・分子運動が激しくなるので体積も増え、それに反比例して密度が下がって軽くなります。温度が高く密度が小さい物質があると浮き上がり、物質の移動で熱を移動させるのが対流の特徴です。
(例:お風呂の湯は、上が熱くて下が冷たいことがある)

今回は、この中の「熱伝導」に焦点を当てて説明していきます。

私たちが日常で経験する身近な「熱伝導」。例えば、[1]熱いお茶を入れた陶器の湯飲みがとても熱くなっていて持てなかった。[2]金属製の鍋の取っ手部分には、木やプラスチックが使用されている。[3]発熱時に使う氷枕、冷えた足先を温める湯たんぽ。などがあげられます。いずれも「直接、触れることで物体の中を高温側から低温側に熱が移動する(伝わる)現象」です。そもそも「熱」とは何だと思いますか。ここでは金属などの「固体」の場合で説明していきます。

「熱」とは原子が振動している状態 熱伝導は、熱の移動

常温でアルミ板の原子が金属結合しているイメージ 拡大

常温でアルミ板の原子が金属結合しているイメージ

固体とは、原子が金属結合(原子同士が互いの電子を共有することで生じる化学結合)で力強く結びついた状態のことです。ビー玉のような原子がそれぞれを互いにバネでつなぎあっている状態をイメージしてください。この状態における原子(ビー玉)の振動が熱に相当します。振動が大きいときは熱量が多い(温度が高い)と考えてください。原子が振動している状態が「熱」で、その振動が大きいと高温、小さいと低温になります。このように「熱」はエネルギーのひとつなのです。それでは、金属のような固体の内部では、どのように熱が伝わっているのでしょうか。

例えば、常温(20℃)のアルミ板で考えてみます。このとき、アルミ板は前出の原子というビー玉が互いにバネによって金属結合している状態で、原子は20℃を保ちながら互いに振動しています。
このアルミ板の端を火で温めます。原子(ビー玉)は互いにバネでつながっているので、温められた場所から振動が次々と隣の原子に伝わり、やがて全体が大きく振動することになります。これが熱伝導の仕組みです。

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    アルミ板を端から温めると原子の振動が大きくなる

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    原子の振動(熱)はやがて全体に伝わる(熱伝導)

では、60℃に温められたアルミ板を氷の板と接触させてみましょう。
2つの物体間の熱の流れは、温度差が大きいほど大きくなります。熱伝導によって伝えられる熱の流れは「温度の勾配が大きいほど大きい」、これを「フーリエの法則※1」といい、通常の熱の伝わり方はこの法則に従い、温度勾配※2に比例しています。

注)温度が高いところから低い方へ流れるエネルギーの移動形態のひとつで、力学的な仕事や物質の移動によるものではありません。

熱伝導率と電気伝導率の関係金属だけにある特性とは…

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■熱が伝わりやすいもの(金属:良伝導)
 銀→銅→金→アルミニウム→鉄
■熱が伝わりにくい物(不良伝導)
 木、プラスチック、ガラス、毛布、綿、空気、水

厚さ1mの板の両端に1℃の温度差がある時、1㎡を通して1秒間に流れる熱量のことを熱伝導率といいます。

熱伝導率は物質によって違いますが、同じ物質でも温度や密度によって変化します。熱伝導は温度差による内部エネルギーの移動なので、温度差の異なる部分の持つそれぞれの内部エネルギーの差が大きいほど熱伝導率が高いといえます。これは単位体積あたりの熱容量(1k)を上げるのに要する熱量(比熱×比重)が大きいほど、熱伝導率が高いということです。
物質によって原子の比重(ビー玉の大きさ・重さ)が異なり、原子をつなぐ金属結合の強さ(ビー玉をつなぐバネの強さ)も異なるため、熱伝導率に違いが生じるのです。熱伝導率は気体→液体→固体の順で大きくなります。
金属は、電子が自由に飛び回ることができる性質から、他の固体(木やプラスチックなど)と異なり、熱と同時に電気も伝えやすい物質です。電子の動きが自由であるほど熱伝導率も高くなるので、電気伝導率が高い金属ほど熱伝導率も高くなります。

熱伝導率に関する専門用語解説

■フーリエの法則※1
物体内に温度差があって、温度の高いほうから低いほうへと熱が流れるときに、熱の流れに垂直な面を考えると、この面を通過する熱の量(q)は、そこの温度勾配(dt/dx)と面積(A)とに比例する。すなわち
q=ーkA dt/dx
kは熱伝導率と呼ばれる。一様な太さの棒の一端から他端へと熱が流れる場合を考えると、棒の長さL、両端の温度がt1、t2、断面積Aとするならば、単位時間当たりの伝熱量は
q=kA t1ーt2/L
となる。なおこの法則は、導体内を流れる電流の強さを表すオームの法則(電気)とまったく同じ形になっている。
■温度勾配※2
物体や空間の温度分布が定常状態(時間的に変化しない場合)にあるときの任意の2点間における温度の変化率。一般に、2点A、Bの温度をTA、TB(ただし、TAはTBより大きい)、AB間の距離をDとすると、その温度勾配は  
TAーTB/D
で表される。

SOURCE

1.科学のつまみ食い「熱伝導率が金属によって異なるのはなぜ?」
http://kagaku.info/old

2.熱の世界へようこそ「熱の伝わり方」
https://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~masako/exp/netuworld/seisitu/ritu.html

3.Hello School小学校理科「熱の伝わり方」
http://www.hello-school.net/harorika000top.htm

4.コトバンク
https://kotobank.jp


注目のアルミプロダクトタカタレムノス「15.0%アイスクリームスプーン」

冷凍庫から出したばかりのアイスクリーム。カチカチでなかなかスプーンが入らない。「あぁ、今すぐ食べたいのに」とじれったい思いでしばらく待っていると周りから溶け始めてしまった・・・といった経験、ありませんか。そんな方にお薦めしたいユニークなアルミプロダクトがこちら。熱伝導率の高さを生かしたシンプルな仕組みに思わず納得。親しみやすいデザインに、自然と笑みがこぼれます。

仏具から時計まで、確かな技術が新たなプロダクトを生み出す力に

ぽってりと丸みを帯びたかわいらしい形状。たくさんの人にアイスクリームをもっと楽しく、大好きになってもらうためのライフスタイルを提案するプロジェクト「15.0%」が展開するプロダクトのひとつとして3年前に発売され、常に話題を集めている“アイスクリーム専用スプーン”です。
このユニークなプロダクトの企画、製造、販売を行っている株式会社タカタレムノス東京ショールーム・オフィス所長の菊地圭輔氏にお話を伺いました。
「タカタレムノスの母体である高田製作所は、鋳物の生産地として広く知られる富山県高岡市にあります。黄銅鋳物による仏具の製造から会社を興し、そこで培った技術力をベースに株式会社精工舎(現、セイコークロック株式会社)に特選時計枠を納めるようになりました。その後、時計事業部を分離分社化したのが、タカタレムノスです。1989年にインダストリアルデザイナーの川崎和男さんとコラボレートし、「HOLA」という時計を発売して以降、現在は約30名のデザイナーと共にオリジナルのデザインクロックを主軸に、インテリア関連製品の企画、製造、販売を行っています」。
そんなタカタレムノスが、一見すると畑違いにも見える「アイスクリーム専用スプーン」を手がけるようになったのは、あるデザイナーから受けた思いがけない提案がきっかけでした。
「時計のデザインをお願いしている寺田尚樹さんという、建築からプロダクトまで幅広く手がけるデザイナーに、アルミの鋳造技術を生かした新しいインテリア雑貨を考えてほしいと依頼したところ、私たちの想像を超えるプロダクトの提案を受けました。それがアルミの“熱伝導率の高さ”を生かしたアイスクリーム専用のスプーンだったのです」。

デザインのベースは、みんなが知っているあのカタチ?!

いつものスプーンは硬いアイスに突き刺さるだけ。 拡大

いつものスプーンは硬いアイスに突き刺さるだけ。

「提案を受けた当初は私も含め、社内では“えっ、なぜスプーン?”というのが正直な反応でした。私たちはデザインクロックを中心とするインテリアに特化したプロダクトのメーカーとしてブランドを構築してきましたので、これまでのイメージとかけ離れた“スプーン”という提案に、かなり困惑しました。しかし、アルミの特性である“熱伝導率の高さ”に着目している点が非常に興味深く、また“アイスクリーム専用”というスプーンが、実は市場にほとんど出回っていないという点にも魅力を感じ、商品化を進めてみようと考えたのです」。
この製品のコンセプトは「手のひらの熱を握ったスプーンからアイスクリームに伝え、カチカチに凍った表面を程よく溶かして食べやすい状態にすること」。アルミの熱伝導率の高さは素材特性としてわかっていても、あまりに単純明快なその仕組みを商品化するには1つ1つ実証を積み重ねていくしかありませんでした。


「イメージした通りにアイスクリームが本当に溶けるのか、こればかりはアルミでスプーンをつくって実験してみなければわかりません。寺田さんにスケッチをおこしてもらい、さまざまなパターンを3Dデータから模型化しました。スプーンといってもいろいろな形がありますが、あえてこのデザインにしたのには、意図があります。そうです、皆さんもよくご存知のアイスクリームについてくるあの“木のスプーン”をイメージしました。これは何のために使うスプーンなのか・・その目的を語らずとも、視覚からきちんと訴えてくれるビジュアルです。デザインが果たす役割は本当に大きいと改めて感じました」。

握った手のひらの熱が伝わってアイスクリームが程よく溶け出した!

アルミ鋳造の中では難しいとされるAC7A。熟練した職人の手によって溶解される。 拡大

アルミ鋳造の中では難しいとされるAC7A。熟練した職人の手によって溶解される。

アルミの特性である熱伝導率の高さを生かしつつ、アイスクリームを硬すぎず溶けすぎずというベストな状態にしたい。その理想を具現化するために工夫されたものづくりへの強いこだわりが随所に感じられます。
「持ち手を厚くしたことで、手のひらの熱がアルミに伝わり、滞留しやすくなっています。またスプーンの先を薄くしたことで、アイスクリームの表面に熱が伝わりやすくなりました。試作でつくったスプーンがイメージ通りにアイスクリームの表面を溶かし、なめらかに入りこんでいく様子を確認できたときは、みんな大喜びでした。熱がアイスクリームに伝わるのと引き換えに、スプーンは冷たくなります。アルミの熱伝導率の高さを肌で体感できる貴重なプロダクトだと言えますね(笑)」。
商品化できると確信してからもデザイナーの寺田氏は理想を求め妥協しませんでした。口に含む際に唇にあたる感触や握り心地、柄の長さや重量感など細部にまでこだわり、何度も試作が繰り返され、デザインが決定しました。
「私たちがこのスプーンの製品化にチャレンジしたもうひとつの理由は、技術力への挑戦です。弊社がスプーンの材質に使用したAC7Aは、Al-Mg系のアルミ合金鋳物です。マグネシウムの含有量がアルミニウム合金鋳物としてJ I Sに規定されている材質の中で最も高い値を誇っています。耐食性に加え靭性(材料の粘り強さ)も高く、陽極酸化性にも優れていますがその半面、鋳造が難しい素材と言われています。高田製作所がある富山県高岡市でも、アルミ鋳物を手がけられる工場は数えるほどしかありません。また、鋳型で抜いたアルミ製スプーンを鏡面仕上げで磨き上げるのも、卓越した技術を持った職人にしかできない仕事です。新たなプロダクトをつくりあげることで技術力をさらに向上させ、他社との差別化を図りたいとも考えていました」。

ライフスタイルを提案するプロダクト
アイスクリームと一緒に幸せなひとときを

こうして出来上がったアイスクリーム専用スプーンですが、これまでタカタレムノスが販売してきた製品とはコンセプトが異なります。そこで見せ方はもちろん、販売ルートやターゲットの確立に向け、新たなチャレンジに次々と取り組んでいきました。
「寺田さんから、“スプーンだけで終わってしまっては製品が認知されない。アイスクリームを楽しむライフスタイルを提案するプロジェクトとしてブランド化してはどうか?”と、“15.0%”というブランド名も提案いただき、関連製品も展開していくことを決めました。“15.0%”というネーミングもインパクトがありますよね。“何ですか、この名前?”と聞いてもらえることで、製品とアイスクリームがより深く結びつくという寺田さんの発想には本当に頭が下がりました」。
加工が難しいアルミ鋳物で型を抜き、仕上げは1本ずつ職人が丁寧に磨き上げてつくるスプーンの単価は決して安くはないため、ギフト需要に焦点をあてパッケージにもこだわったとのこと。これならもらった人も、思わず笑みを浮かべてしまいそうです。

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    ギフトはもちろん、自分へのご褒美にもオススメ!

アルミ鋳造でつくられたオリジナルクロックも素敵。
(「edge clock(大)」) 拡大

アルミ鋳造でつくられたオリジナルクロックも素敵。
(「edge clock(大)」)

「アイスクリームは大人も子どもも好きだと思うのですが、15.0%では、ターゲットを大人に絞っています。売り場で目を引く立体感溢れるパッケージで、普通のスプーンとは一味違った独自の存在感を表現できればと思っています」。
ユニークな発想と確かな技術力、そして緻密なマーケティングが功を奏し、2011年にはグッドデザイン賞を受賞。その後も季節を問わず、コンスタントに各種メディアで紹介されるなど常に話題を集め、現在は品薄状態が続いているとのこと。
「お客さまをお待たせしてしまうのは本当に申し訳ないのですが、アルミの鋳物でしかできないこの形状にこだわってつくっていきたいと考えています。丸みを帯びた小さなスプーンを職人さんたちが磨ける数は、月1500本が限界です。小さなくぼみまでまんべんなく均一に、しかも美しく磨き上げられるのは本当に熟練した一部の限られた人たちだけなのです。このプロダクトには、さまざまな人の知恵と技術が詰まっています。手のぬくもりを伝えながら、甘くて冷たいアイスクリームをやさしく溶かしてくれるこのスプーンが、皆さんのライフスタイルをもっと楽しく演出してくれると思います」。

15.0%
www.15percent.jp/

COMPANY DATA
株式会社 タカタレムノス
東京ショールーム・オフィス
〒112-0012 東京都文京区大塚3-7-14
シャノワール文京1F
www.lemnos.jp/

DESIGN
寺田 尚樹
テラダデザイン一級建築士事務所
www.teradadesign.com/