建築家インタビュー アルミ・素材・建築

小嶋 一浩

聞き手 畔柳 昭雄

このシリーズは、著名な建築家に、アルミないし素材を通して自らの建築観を語ってもらうものです。第1回は、幾何学模様のアルミシェードが話題となったカタールのリベラル・アーツ&サイエンス・カレッジの設計者である建築家の小嶋一浩さんにお話しをお伺いしました。聞き手はアルミ建築に造詣の深い畔柳昭雄・日本大学教授です。

デリケートには仕上げない

― 小嶋さんには素材に対するこだわりがあまりないように感じます。何らかの理由でその素材に行き着いただけであって、素材ありきではない。しかし、作品を見ると意外なほどに素材がダイレクトに見えてきます。例えばOta House Museum。表現とは別の理由で選択された構造用合板ですが、その印象は強烈です。カタールのリベラル・アーツ&サイエンス・カレッジにしても、アルミを基調とした内装としたかったわけではないと思われますが、アルミによるシェードの存在感は大きいと思います。

 確かに好きな材料があって、それを繰り返し使いながら表現の質を高めていく建築家ではありません。仕事を始めた頃は鉄筋コンクリートばかりを使っていましたが、防火に配慮せざるを得なかった結果です。
 素材は、その都度探しているのが現状です。しかし、現地調達ということでもありません。岡山県の吉備高原小学校の際は、木が相応しいと考えましたが、値段の関係でアメリカ産のものを使いました。基本的にケースバイケースでやればよいという結論に至っています。

― 小嶋さんが求める表現は洗練とも違いますね。
 
 できるだけ材料はそのまま見せればよいと思っています。デリケートに仕上げられているものは僕自身疲れます。ピカピカの新車より年数が経っている車の方が気軽に乗れます。
 建築の素材も同様で、コンクリート打放しでも、コンクリートの純粋な表情に興味はありません。ですから外装で使う場合、透明ではなく黒の撥水素材を塗ってしまいます。汚れに対しても耐久性についても、これが安定していると思います。

つくることを楽しむ土壌

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リベラル・アーツ&サイエンス・カレッジ内観模型。

― ツダ・ジュウイカは鉄板の印象が強い作品ですが、鉄板のボックス構造を用いた建築をつくりたいという意識が最初からあったのですか?

 そうではありません。獣医科の設計は初めてでしたので、どのような空間が必要かを調査したところ、たくさんの収納が必要なことが判明しました。その量たるや収納家具だけで予算をオーバーしそうなくらいです。それなら棚を建物にしてしまえと思い、構造家の佐藤淳さんに、鉄板で箱をつくることで構造にならないかと相談したところ、その場で電卓を叩いて、400ミリ角の立方体なら厚さ6ミリでできますよ、という答えをもらいました。

― 上棟時の写真を見たことがありますが、ペイントしていない鉄板には迫力がありました。
 
黒皮のままの鉄板を見まして、ペイントするかこのままにするか判断がつきかねましたので、何日か塗装を待ってもらいました。しかし、黒皮といえども少しは錆びます。錆が病院に適切か、また新しく開業する医院のイメージとして黒皮の表現が相応しいかと考え、最終的には白くペイントしました。
 
― かなり迷われたのですか。
 
 大いに迷いました。鉄骨屋さんの仕事でこれだけきれいなものができるとは想像していませんでした。しかも高価なわけでもありません。このような技術が日本特有のものだと思います。アメリカでも1950年代のSOMの作品などは手すりひとつにしても見るべきものがありましたが、今は期待すべくもありません。メーカーができないと言えば何もできない時代になってしまいました。ヨーロッパの方がまだクラフトマンシップが残っていますが日本とは違います。ツダ・ジュウイカのような仕事をおもしろがってくれる土壌が日本にはあります。その意味で、いま日本でつくる小さな建物には大きな可能性があると思います。

カタールでアルミを使う意味

― リベラル・アーツ&サイエンス・カレッジのシェードはどういった目的でつくられたのですか。

 上階にいる女性が下階にいる男性から見られないようにすることが求められたのです。宗教的な理由ではありません。女性が男性に慣れていないことを考慮しての処置だと聞いています。しかし、まったく視線が抜けないと圧迫感も生みますので、正面からの視覚的透明性は確保してあります。

― アルミとFRPグレーチングを検討されたということですね。

 大きいので、かなりの面強度が要求されます。しかし、ベールのようなものをイメージしていましたから、下地は入れたくありませんでした。そうなると選択肢は限られます。FRPグレーチングは過去にも使っているので性能的には安心でしたが、使う場合には日本から運ぶことになります。それに対してアルミは現地調達できます。また、アルミは精製に莫大な電気が必要になりますが、電力が豊富なカタールで使うということはそれなりに意味があると考えました。

― 現地で制作されたのですか。

 日本のアルミメーカーに制作の相談をしたりもしましたが、結局は現地のメーカーで制作しました。砂型か金型かの選択では、最大5メートル超まで一体で製作ができるという理由で砂型に決めました。しかし、それは日本のメーカーの場合であって、現地のメーカーは加工可能な大きさも劣ります。結果、ピースを溶接するかたちで用いらざるを得ませんでした。

― 1枚の重量はどのくらいあるのですか?

 すごく重いものですよ。人間4~5人で1枚を運んでいました。動かす際に重機を使った記憶はありませんが、かといって2人で運べる重量でもありません。相当な重さですので、落下防止には細心の注意を払っています。
 ちなみに見込みは30ミリ。これであれば必要な面強度を満たし、視線をもコントロールできます。原寸で模型をつくり検証しました。

ほかに類を見ないアルミの表現

― トップライトの遮光ルーバーもアルミですか?

 アルミの押出材でできています。フィンの接点である棒状の部分に切り込みを入れて、抜け落ちないようにボルトで締めています。真下には模様どおりの影が落ちるのですが、斜めに入ってパソコンなどに直接あたらないようにすることが目的です。
 本当は倍の600ミリの厚さがあったのですが、実施設計の段階でわれわれの描いた図面がスケールを間違えてコピーされ、300ミリになってしまいました。すぐ間違いがわかったのですが、時間切れで絶対に変更してもらえません。設計の期間がわずか4ヶ月間、しかも相手に非があろうとも変更が認められない過酷なシステムでした。

― エール・フランスの機内誌にこの建物を俯瞰した写真が載っていたそうですね。

 ドイツとフランスで活動している建築家が見つけて送ってくれました。カタールを空から見るという特集のために撮られたもので、自分でもこのアングルの写真を見るのは初めてで新鮮でした。
 このダブルルーフは直射日光を制御するために設けたもので、下には空調機が入っています。このルーバーもアルミですが、ハンターダグラス(オランダ)の製品です。同時に建設が進んでいたメディカル・カレッジと同じものを使っています。見せる意識はまったくなく、リーズナブルな既製品を使ったらこんなにきれいになったというわけです。

― アルミのシェードは成功だったとお考えですか?

 よかったと思っています。ほかに類を見ませんよね。さまざまな見え方をするのがよいと思っています。真正面から見ると透明感があるので、フラジャイルな、つまり硬いのにパリンと割れそうなイメージがあります。大量に使っているのに単調な印象になりません。また、近くのシェードと遠くのシェードが何枚も重なることでグラデーションになりますし、自分が動くことで視線の抜け方が変わります。重なったときにはモアレも生じ、歩いていくとベールを何枚もくぐっていくような感覚があります。ぜひ実際に見ていただきたい建物です。中東はとても遠い印象がありますが、中部国際空港、関西国際空港からは直行便がありますから、簡単に行くことができます。
 世界中でこれほどアルミを使っている建物はないと思いますよ。

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    リベラル・アーツ&サイエンス・カレッジ内観。2階部分に幾何学模様のアルミシェードが取り付けられている。

アルミによって建築部材のヒエラルキーを消す

― 小嶋さんはスペース・ブロックですとかブラック&ホワイトといった原理を用いて空間をつくられますが、アルミならではの空間構築システムは考えられませんか?

 膜とアルミを組み合わせてドームのような空間をつくるシステムができるのではないでしょうか。それこそ皮膜がそのまま構造にもなるシステムです。折りたたむことや分解することが可能で、増殖するようなイメージです。ジョイントがアルミの精度によって成り立ち、ユニバーサルになるところで膜を利用します。

― この2007年5月でアルミが建築構造材として認可されて5年が経ちます。この5年間でアルミをめぐる状況は変わったのでしょうか。

 そもそも僕にとってのアルミの原点は、倉俣史郎さんのスーパーヘアーコイケです。渋谷駅から渋谷区役所に上っていく途中にあった美容室で、店内がオールアルミでした。マットな質感ですが、伊東さんともちょっと違う妖艶な感じがありました。
 倉俣さんのようにアルミを表現としてのみ用いる時代から、構造材に使う時代に変わり、現在はアルミ構造に見合った表現ができる時代になってきたと思います。こなれたと言いますか、5年前にはなかった余裕が表現にあります。
 伊東豊雄さんが設計されたアイランドシティ中央公園のトイレはとてもきれいだと思います。ここではドアと構造の区別がつきません。本来あるべきマテリアルのヒエラルキーがなくなっている。その意味でアルミならではの表現と言えるのではないでしょうか。
 それに対し桜上水K邸(2000年)で伊東さんは70ミリという見込みにこだわっていました。柱の寸法とサッシの寸法を同じにしたかった気持ちはわかりますが、柱とサッシの表現はバラバラです。5年間で、そのふたつのヒエラルキーの差を、さらっと消すことができるようになったと感じています。
僕も機会があれば、このようなアルミならではの特性を活かして設計をしたいと考えています。

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    外観夕景。外壁パネルはGRCでできている。

撮影:西川公朗写真事務所

小嶋 一浩

小嶋 一浩

1958年 大阪府生まれ
1982年 京都大学工学部建築学科卒業
1984年 東京大学工学研究科建築学専攻修士課程修了
1986年 同大学博士課程在籍中にシーラカンス一級建築士事務所を共同設立
1988~91年 東京大学建築学科助手
1994年 東京理科大学助教授
1998年 シーラカンスアンドアソシエイツ(C+A)に改組
2005年 CAtに改組
2005~11年 東京理科大学教授
2011年~ 横浜国立大学建築都市スクール"Y-GSA"教授
2016年10月 逝去
CAtパートナー、横浜国立大学建築都市スクール"Y-GSA"教授
畔柳 昭雄

畔柳 昭雄(くろやなぎ あきお)

1952年 三重県生まれ
1976年 日本大学理工学部 建築学科卒業
1981年 日本大学大学院博士課程修了
2001年~日本大学理工学部 海洋建築工学科教授