動く建築

特種東海製紙Pam

特種東海製紙Pam

※写真は2010年当時のものであり、現在(2017年11月1日時点)はレイアウトなど変更しておりますので、その点、ご了承ください。

巨大ルーバーが駆動するSUSタイランドの設計を、SUSと共同で手掛けた都市造形研究所の伊井伸氏と、本誌「アルミ構造設計入門」の連載でもおなじみの構造建築家の飯嶋俊比古氏が「特種東海製紙Pam」を訪れました。

建物の第一印象について

伊井 建物に近づいて感じた第一印象は大きなガラスの箱でした。しかし建物内部空間に入り、大きなガラスシャッターが可動し、側壁のガラスまでもが可動する姿はこれまでの建築の概念を超えた驚きと新鮮さを感じました。全てが開いた状態では初めの箱の印象はどこかに消え、全く別の空間に遭遇した感を持ちました。

飯嶋 構造も要素が多いですね。大きなフィーレンディール、小さなフィーレンディール、テント幕、張弦梁、立体トラス、プレコンの床版などがあります。中央に大きな吹き抜け空間があって、空間構成もダイナミック、明るく端正な感じも受けました。

建築が可動する意味をどう捉えるか

伊井 可動する部位は外壁、大規模シャッター、間仕切壁は全てがガラス素材で構成されており、そのダイナミズムは全体の構造架構も消してしまう力を持っています。この建物の可動は部位の集合体としての可動を超え、空間を完全に変換させるシステムと考えるべきでしょう。外部環境に対応するための可動は部位による可動方法が一般的ですが、この建物で試されている可動は空間変換として捕らえるべきであり、環境に対応した頻度の高い可動には、また別の答えが必要ではないでしょうか。

飯嶋 A棟は可動する部分と可動しない部分があり、構造そのものは動きません。動くということは固定されていないということですから、部品、部材が動けるように構造的に自立と言うか完結、または独立して存在しているということですね。B棟も外壁が動きますが、動いた結果生み出される空間の意味は、A棟とB棟では違うのではないかと思います。A棟はドラマチックに庭を見せる、B棟は中間領域の創出と言う感じでしょうか。

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    紙に関する総合的な文化交流、研究の場として2002年10月に竣工した「Pam」。

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    南側の外部は蔀戸のように開き、内側のガラス間仕切りを両側に引き込むと、室内外は一体化する。

建築と構造の関係について

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オフィスの一角にecomsのグリッドシェルフを発見。紙管パーティションとの相性もよいと好評とのこと。

伊井 この建物を拝見し、構造がデザインに組み込まれ、建築と完全に一体化している印象を受けました。しかしよくよく見るとさまざまな構造が考えられていました。おそらく空間実現のために考えられた構造システムではないでしょうか。またA棟は、展示空間に導入するためのエントランス機能としての役割を持たせているのではないかと感じました。きっと何もない無機質な空間を実現したかったのではないかと思います。

飯嶋 2階の梁と3階の梁で構成されたフィーレンディールがすばらしいと感じました。このお陰で、1階は無柱空間となっています。それゆえに、2階部分はフィーレンディールの縦材に相当する柱が並んでおり、その下には柱がない…と言う状況が出現し、2階部分の浮遊感も演出されています。外壁を開け放った時には、中央の吹き抜け空間との相乗効果で、視線を遮るものがなくなり、水平方向、上方向が自由になるため、空と一体化した感じすら受けました。

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    空間の内部と外部を一体的、且つ連続的に見せる効果を発揮するB棟のスライド式シャッター。深い庇が中間領域をつくりだす。

アルミ建築との関係をどう見るか

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2つの建物をつなぐ構造を兼ねた渡り廊下

伊井 Pamを見学し、素材の持つ力は構造体までも消し去ってしまう…そんな印象を持ちました。アルミ建築を考えると構造としてのアルミ素材と、部位としてのアルミ素材は切り離すべきかと思いました。アルミ素材は独特の美しさと、さまざまな特性を持っています。その特性を生かす方法としてあらゆる空間への挑戦が今後、必要であると考えさせられました。

飯嶋 部品・部材を動かすことから、大きな空間を分節化、部材化していると見ることができます。言い方を変えれば、小さな部材で大きな空間が構成されているとも言えるでしょう。この考え方は、アルミ建築の概念に近いものがあります。形材から部品を構成し、部品から部材を構成し、それらが集積して建築ができあがる。Pamはアルミ建築が想定している規模より大きな空間ですが、貴重な示唆を与えてくれていると感じました。

伊井・飯嶋 今回の見学会は、アルミ建築にチャレンジしているわれわれに大きな勇気を与えてくれる、本当に有意義な建築見学会でありました。ありがとうございました。

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    外壁はすべて自然光が透過するドイツ製GRPの中空パネルで統一。内側のガラス引き戸も全部開口できる。

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    B棟展示室からA棟を望む

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    FRP製スタッキングシャッター

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    2階展示室フィーレンディール・トラスが見える

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    アクソメ

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    南北断面

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    東西断面

設計:建築 坂茂建築設計
   構造 星野建築構造設計事務所
   設備 知久設備計画書
施工:大林組名古屋支店
敷地面積:6,277.69㎡
建築面積:1,672.40㎡
延床面積:2,437.11㎡
階数:地上4階
構造:鉄骨造
工期:2001年5月~2002年9月

飯嶋 俊比古

飯嶋 俊比古

1948 年 神奈川県生まれ
1970 年 関東学院大学卒業
1975 年 名古屋大学大学院博士課程修了
1975 年 飯島建築事務所設立
1981 年 飯島建築事務所代表取締役/工学博士
伊井 伸

伊井 伸

1947年 静岡県生まれ
大成建設株式会社 本社設計部入社
大成建設株式会社 名古屋支店設計部勤務
A&T建築研究所 名古屋事務所 所長を歴任
1993年 株式会社 都市造形研究所 設立