動く建築

リゾナーレ・リーフチャペル

リゾナーレ・リーフチャペル

南側外観。ベールが開くと、新郎新婦は池の飛び石を渡り、次の舞台である芝生広場に移動する。ベールのスチールパネルは厚さ6mm。防錆ブラスト処理後、常温亜鉛メッキ、アクリルシリコン樹脂塗装が施されている。

リゾナーレ・リーフチャペルは、山梨県小淵沢にあるリゾートホテルの敷地の一角に建つウエディングチャペルです。新婦のベールのごとく開閉する機構をもつこのチャペルについて、設計者であるクライン ダイサム アーキテクツのアストリッド・クラインさんと西村嘉哲さんにお話しを伺いました。

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    敷地断面

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積雪時に俯瞰する。

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夜景。内部の光が成形ポリカーボネートキャップよりこぼれ出る。

― このチャペルの独特の形態はどのようなイメージから生まれたのですか?

地上に舞い落ちて柔らかく重なり合う2枚の葉をイメージしています。その1枚がガラス、もう1枚がスチールでつくられています。内部は藤棚のように木漏れ日が差す優しい空間となっています。

― なぜ、動かそうとしたのですか?

この素晴らしい自然を生かした結婚式の演出を考えた時、チャペルを閉鎖的にしてはいけないと思ったのがきっかけです。最高の演出として本物の自然をそのまま見せられればと考えました。挙式のクライマックスで新郎が新婦のベールを上げて誓いのキスをする瞬間、チャペルのベールも開き、自然にキスされるのです。ベールが開くと、新郎新婦は池の飛び石を渡り、次の舞台である芝生広場に移動します。そこではフラワーシャワーとシャンパントーストで喜びを分かち合う。このようなストーリーの中で「動く」発想が選択されました。

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工場で組み上がったベールの構造体。※

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ベールは6つのピースに分けて現場に運ばれ、溶接して仕上げられた。※

― 動かすことに対する不安などはありませんでしたか?

あったのは、実現させたいという気持ちだけです。まず私たちは、野球場の可動屋根などの大型可動構造物を多く手掛ける川崎重工に相談しました。どのような答えが返ってくるか心配でしたが、予想に反して、まったく問題ないとの答えが返ってきたのです。彼らにとって、このプロジェクトはこれまで手掛けた中でも小さい部類に入るものだったようです。

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PC 制御で1つ1つ穴が開けられスチールパネルはプレス機を用い手作業で曲げられる。※

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施工現場にて駆動部(ヒンジ)を見る。※

― それでは開閉を可能とするために大きな障害にぶつかったりすることはあまりなかったのですね?

軽いアルミでつくればもっと楽に開閉できたのかもしれませんが、幅約16m、重さ約11トンのベールの開け閉めは大したことないといわれてしまったことから、スチールのままで進めました。規模も当初からのクライアントの希望どおりですし、駆動装置も特別なものではありません。モーターと油圧シリンダーで、軸を片側に押すことによって開いていく機構です。問題はいかに平滑な三次元曲面のベールをつくるかでした。ガスタンクできれいな球はつくれても、建築としてきれいにつくることに関して、彼らはあまり経験がなかったのです。しかし、この点に関しても楽しんで仕事をしてくれました。ここでは6つのピースを工場でつくり、それをトラックで運び、現場で溶接して仕上げました。

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ベール内側。成形ポリカーボネートキャップを通った光はレンズの効果で光の輪が投影される。

― 4700個のベールの穴はどのように開けたのですか?

私たちで開けるべき穴の位置の正確なデータをつくり、それを元にPC制御で1つ1つ穴が開けられています。しかし、平らなスチールパネルを曲面にするのは手作業です。熟練の職人さんが、手でプレス機に入れて徐々に曲げていきます。ポリカーボネートのキャップを入れ、シリコンでシールするのも手作業です。これは現場で行われました。ベールの内側には骨組みがありますが、構造は見せずに純粋に穴に通った光だけを取り込みたかったので、特殊な膜材を張って隠しています。この膜に光がキャップを通して入ってきますが、リング状の二重の光の発生は予期しなかった現象です。

― 動く建築が実現した最大の要因は何だとお考えですか?

設計者のみならず、クライアントも施工者もみんな前向きだったことが要因です。特にクライアントは新しいことにチャレンジすることに意欲的でした。またトップがポジティブでもスタッフが反対することはしばしばあるのですが、ここではスタッフも皆ポジティブな人たちばかりでした。
川崎重工含めてみんなにこにこしながら仕事をしていた記憶があります。クライアントはリゾート再生で有名な会社です。彼らを見ていて、リスクを取ろうとしない人は結局成功しないということを実感しました。施工者側も川崎重工含めて皆、笑顔で仕事をしてくれていた記憶があります。

― 建築を動かす時に注意すべき点はなんでしょうか?

安全対策です。事故が起きないようにすることはもちろんのこと、センサーが大きく露出していたり、サイレンが鳴ったりしては、セレモニーの施設として失格です。安全対策は万全だけれども、そのことをお客さまが露骨に感じるようではいけないと思います。このチャペルの場合は、オペレーションも含めてクライアントと相談しながら決めていきました。

― 動く建築という視点でやってみたいことはありますか?

可動バルコニーをつくってみたいですね。普段はコンパクトだけれども、天気のよい日には大きく張り出して気持ちのよい広いバルコニーになるようなものです。天候や季節によって建築が可動することで、より快適な空間や生活が得られるのではないでしょうか。

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    チャペル内部より池のある南庭を見る。

設計:建築 クライン ダイサム アーキテクツ
   ランドスケープ オンサイト計画設計事務所
   照明 ICE
   構造 アラップ ジャパン
   設備 テーテンス事務所
総合ディレクション:星野リゾート一級建築士事務所
施工:りんかい日産建設
ベール制作据付:川崎重工業
建築面積:121.68 ㎡
延床面積:167.89 ㎡
構造:鉄骨造 一部鉄筋コンクリート造
工期:2003 年10月~ 2004 年4月

撮影:木田勝久 ※印写真提供:クライン ダイサム アーキテクツ