アルミハウスプロジェクト

「戦後の住宅における構造、構法の変遷」

「家を建てるならば大工さんに木造の家を建ててもらう」。5軒に4軒という根強い在来軸組木造に対する人気は、このような言葉に表れているように思います。一方で、強力な営業力を背景に確実に地歩を固める住宅メーカーの存在。このような状況の下、アルミハウスのあるべき構造、構法を検討したいと思います。

昨年の住宅着工戸数は100万戸の大台を割りました。

表1 住宅着工の種類と構造別「持家」×「専用住宅」 拡大

表1 住宅着工の種類と構造別「持家」×「専用住宅」

 昨年の住宅着工戸数は、2008(平成20)年9月のリーマン・ショック、それに続く世界金融危機によって1967(昭和42)年以来42年ぶりに100万戸を割り78万8千戸となり、前年の72.1%と激減しました。この減少は、第1次オイルショックの翌年、74年の69.1%に次ぐものです。一戸建住宅を中心に供給する住宅メーカー、分譲マンションを供給するディベロッパーにとっては、いよいよ「住宅産業・冬の時代」の到来となりました。住宅着工戸数の減少(表1参照)は、持家で10.6% 減、貸家で30.8 % 減、分譲住宅で43.7%減であり、確かに住宅メーカー、ディベロッパーにとって死活問題です。しかし、住宅着工戸数の100万戸割れは、全国ベースで非居住住宅を除く住宅戸数が世帯数を上回り真の「住宅の量的充足」が実現した88年から、特にこの2、3年、言われ続けてきたことであり、リーマン・ショックの大きな影響がなくとも、昨年の着工戸数は10%減の98万戸程度になったと思われます。その裏付けは、住宅需要として堅実である個人の持家建築(本号では、建築着工統計の「持家」×「専用住宅」を採用し、以降、「持家の建築」と称します)において、09年の27万9628戸は、前年の10.5%減であるからです。これから数年、住宅着工戸数は90万戸台を推移するであろうと思われます。
 「持家の建築」戸数は、戦後最多の住宅着工戸数190万5千戸を記録した73年に戦後最多の76万5千戸となりました。その後暫減し、消費税5%導入の翌96年に61万5千戸と一時的に増加するものの、09年には28万戸となり73年の36.6%となってしまいました。近年の30万戸台、そして昨年の30万戸割れも、75年前後の住宅の建替え需要と、団塊ジュニア・新人類(29号に詳述)の新築需要という新しい需要に支えられています。

持家建築では5軒に4軒は木造住宅です。

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「専用・持家」において昭和51年(76)年以前は「長屋」を含む

SE構造の接合部。 拡大

SE構造の接合部。

 右記の図表の通りに、建築着工統計で「持家の建築」を構造別に集計し始めた68年には、住宅着工戸数が100万戸を超し、「持家の建築」の92.2%が「木造」で、すべてが木造と言っても過言ではありません。従って、戦後間もなくの昭和20年代は、軽金属組立家屋試作(27号にて詳述)、木造量産型住宅「プレモス」(28号にて詳述)など住宅のプレファブ化の取組みはありましたが、「持家の建築」において、大工さんが建てた木造住宅が限りなく100%に近く占めていたことが推察できます。昭和30年代になり、住宅メーカー、すなわちプレファブ住宅が登場し、「木造」のシェアは90%となり、その後も暫減し、09年には82.7%であり、5軒に4軒となっています。その戸数ベースでは、住宅着工戸数の減少に影響され、68年50万4422戸の45.9%、最多戸数の75年59万8638戸の38.6%と、半減、1/3減しています。それに反して、「鉄骨造」は、68年に2万1885戸から、96年に12万1951戸で最高となり、09年でも4万2460戸と68年のほぼ倍増です。
さらに、そのシェアは、68年の4%から09年15.5%までに増え、結果として、「木造」の約10%減少は「鉄骨造」のシェア拡大によると言えます。また、プレファブ住宅の着工戸数の集計される1977年で、「鉄骨造」5万2410戸のうち3万6745戸(70.1%)が、09年4万3460戸のうち4万322戸(92.8%)がプレファブ住宅であり、すなわち、「鉄骨造」は住宅メーカーの住宅商品と言えます。「鉄骨造」の10万戸を超える95年19.9%、96年19.8%という高いシェアは、消費税5%導入の09年を前にして、住宅メーカーの、工場、大量生産に加え強力な営業力によると言えます。ちなみに、その2年間、「木造」は80%弱となっています。
 また、「鉄筋鉄骨コンクリート造」「鉄筋コンクリート造」など他の構造は、その戸数、シェアとも減らしています。その中で、「コンクリートブロック造」は68年の5883戸を最高に、09年376戸までに激減し、住宅の構造としては過去のものとなっています。

木造住宅にはすべての構法がある。

 木造住宅の構法(表2参照)は、軸組構法、壁式構法に分けられ、また、前者の家を木造住宅、後者を木質住宅とも言います。
 軸組構法では、日本古来の渡り腮(わたりあご)などの木組み技術の伝統軸組構法と対比され、蟻掛けの羽子板ボルトなど補強金物や筋交いを多用する在来軸組講法が一般的です。これは58年の建築基準法で規定され住宅金融公庫の仕様書によってより具体的な仕様として普及しました。また、住宅メーカーが商品化した、軸組と耐力壁としてパネルを組合せた建て方の軸組パネル構法とがあります。また、近年になり、接合金物で構造木材を接合する新軸組構法も出現しています。
 在来構法に対して、新来構法と呼ばれ、海外から輸入された壁式構法には、枠組壁構法(ツーバイフォー)、木質パネル構法、丸太組構法があります。枠組壁構法(ツーバイフォー)は名の通り、2インチ×4インチの木材と構造用合板での壁構造です。明治初期に北海道に伝わり、札幌市時計台がその代表であり、昭和40年代に住宅として販売され、74年に技術基準が定められ、現在の主力企業である三井ホームも設立されました。ツーバイフォー新設住宅は近年10万戸前後です。また、木質パネル構法は、枠組壁構法と構造的に同じですが、合板を枠に接着剤で強固に固定するために枠材の断面、合板の厚みなどが枠組壁構法より小さくなります。ミサワホームが62年の大臣認定を取得して営業を開始しました。最後に、丸太組構法は、昭和30年代に初めてログハウスとして輸入され、86年に旧建設省告示により制定され、別荘なども含め、現在年間1500戸強着工されています。
 また、鉄骨造においては、6㎜以上を重量鉄骨造、6㎜未満を軽量鉄骨造に分けられ、一般的にはボルト、リベット、溶接で接合されます。住宅メーカーは、鉄骨の工場生産、量産化、そして現場工期の短縮などの利点から、鉄骨造を多く採用しています。
 一方、アルミの構法を考えますと、材質、その製法からは原則として鉄骨造に準じますが、アルミは溶接に向かないために、木造的な構法が採用されています。SUSのこれまでの建築物においても、表2に見る通り、木造の構法に倣っているものが大半です。

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    スチールハウス構造躯体の構成。

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    表2 住宅の主な構造、構法

アルミハウスプロジェクトは柔軟に構造、構法を考えます。

 最近、木造、鉄骨造で新しい構法が考案され、特にSE構法とスチールハウスが話題になっています。まず、SE(Safety Engineeringの略)構法は、構造用集成材の柱、梁をNC制御機械プレカットで加工し、接合部に剛性があるSE金物を用いることで半剛節ラーメンフレームを実現しています。主要な柱は柱脚金物で直接基礎に緊結し、床には構造用合板または複合パネルを、屋根には垂木構造または複合パネルを用います。すなわち、面材およびパネルと木質半剛節ラーメンフレームを組合せた架構です。接合剛性および耐力壁は性能評価して、立体解析による構造計算を採用し、97年に建築基準法38条大臣認定を、その後各種認定を取得しました。その特徴として、在来軸組構法に比べ高い強度、それによる安全性を挙げることができます。また柱の最大間隔は梁間方向8m以下、桁間方向5m以下となり大きな開口部が可能となります。その供給、施工は、SE構法の大臣認定を受けた株式会社エヌ・シー・エヌ(New Constructor’s Network)などがすべての構造設計を行い、下記のメンバーにて実施し、近年、年間1200棟を建設しています。
 基礎構造設計者はエヌ・シー・エヌまたはエヌ・シー・エヌ グループ登録施工会社
 工事施工者は別途教育されたエヌ・シー・エヌ グループ登録施工会社480社
 部材製造者はエヌ・シー・エヌが指定した工場
 部材製造工場はエヌ・シー・エヌが指定した工場
 また、スチールハウスとは、木造2×4住宅の枠材をスチール(亜鉛めっきを施した厚さ1㎜前後の軽量鉄骨)に置き換えた枠組壁構法の住宅で、いわゆる「KC型スチールハウス」のことをいいます。国土交通省よりの01年薄板軽量形鋼造告示、翌年各種認定を取得しました。その特徴としては、耐震性(等級3)、耐久性(骨組みは100年以上)、省エネ(等級4)、居住性(外張断熱、高い気密、遮音)、耐火性(準耐火建築物も可能)を挙げることができ、かつ大空間72㎡(9m×8m)も可能です。その供給、販売は、下記のスチールハウス協会の会員によってなされ、08年度の建築着工棟数は1221棟(05年度 2157棟が最多)です。    
正会員 鉄鋼メーカー(新日本製鉄、神戸製鋼所)
第1種 住宅建設業者、住宅販売業者でスチールハウスを設計・施工または販売する法人(102社)
第2種 スチールハウスを設計・工事監理する建築士事務所(28社)
第3種 スチールハウス協会推奨品製造工場を有し、スチールハウスの材料を供給する法人(62社)
 根強い在来軸組木造に住宅メーカーをはじめとする新しい構法が登場している状況下、アルミハウスにおいては、建替えというニーズ、そして新人類と呼ばれた世代のニーズに応え、さらに、木造、鉄骨造などの構法から、合理的、効率的な新たな構法を柔軟に採用しなければならないと考えます。それらによって、適切な階高、天井高、そして8m程度の梁間を可能にし、大きな開口部をもつ快適で開放的な空間を創造することは、アルミハウスの優位性となります。また、アルミハウスの販売方法は、SE構法、スチールハウスの新しい販売体制を参考にして、強力な営業力を持つ住宅メーカーとは異なる供給、販売体制の整備も必要不可欠です。アルミハウスにとって考え、立案すべきことはまだまだ多いと思われます。

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    表3 SE構法とスチールハウスの仕様