アルミハウスプロジェクト

「t²も含めたアルミハウスの目指す姿」

アルミハウスプロジェクトにおいて、アルミ製ミニマル居住ユニット「t²」が先行発表されました。この「t²」も含め連載アルミハウスプロジェクト・ストーリー全11回をまとめてみたいと思います。

「建築は住宅に始まり、住宅に終わる」

(吉村順三の言葉)

海外におけるアルミハウスの始まり

 20世紀前半、アルミ建築は住宅に始まったと言って過言ではなく、科学、技術の発展に基づく工業生産への期待から、画期的な事例が3つ誕生しています。
 第一は、バックミンスター・フラーが1927年に発表した、工場生産を前提とする「4Dハウス」です。この理論は後に「ダイマキシオン・ハウス」へと展開し、1945年には「ウィチタハウス」が試作されました。圧縮材と引張材を組み合わせた軽量構造をジュラルミンの外皮で被い、設備機器までアルミで一体化された量産住宅です。コンテナで輸送し、1日で組み上げ、そして解体・移送を可能とする革新的な試みでした。
 アルバート・フライは、柱と断熱材を含む外壁の表面材にアルミを用いた「アルミネアハウス」を1932年の「近代建築展」に出品しました。この住宅は、ル・コルビュジエの弟子であるアルバート・フライが、ドミノシステムと「近代建築の5原則」を具現化したものとして、今日に至っても話題となっています。特に注目すべき点は、アルコアなどの一般的な工業製品を建築部材として採用し、10日間で組み立てられ、傷んだ部材は機械の部品交換のように容易に取り替えられることです。
 3つ目は、1948年にコンゴで建設されたジャン・プルーヴェによるフランス駐在員用のプレファブ住宅「トロピカル・ハウス」で、アルミの構造材、屋根材を用いています。プルーヴェは自らの工場を持ち、家具から建築までデザインと試作を繰り返し、1940年代前半までは鉄を中心に扱っていました。その後、アルミで部品、部材を開発し、50年代ではカーテンウォールまで製造しました。

日本におけるアルミハウスの始まり

 日本でのアルミハウスへの挑戦は、3期(本誌27号、34号を参照)に分けられます。
 1期は、戦後間もなく星野昌一氏などの指導の下、フラーの「ダイマキシオン・ハウス」と同様に量産を目的として「軽金属組立家屋」などが試作されました。次に65年以降、海外からアルミハウスの技術を導入したアルミ企業5グループが、工業製品で組み立てられた「アルミネアハウス」のごとく、自社製作したアルミ部材でアルミハウスの供給を始めます。日軽アルミグループの「スペースカプセル」は3000棟、古河アルミニウム工業の「フレーム・システム住宅」は数十棟に及びました。しかし、74年の第1次オイルショック、高度成長の終焉によって、アルミ産業は国内精練の撤退という大きな構造改革を余儀なくされ、アルミハウスの開発も中断されました。
 その後、90年代に入り、アルミ業界、アルミ関連団体がアルミ建築、住宅の普及を目指し、難波和彦氏の「エコ素材住宅」(99年)や伊東豊雄氏の「桜上水K邸」(00年)が具現化しました。02年5月にアルミが構造材として認定され、数名の建築家がアルミの住宅に挑戦しています。これらは、構造材、部材としてのアルミの可能性を広げましたが、プルーヴェとは異なり、部材の標準化、住宅の量産化を十分には追求していません。

「住宅は住むための機械である」

(ル・コルビュジェの言葉)

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    ecoms hall 2003(平成15)年

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    ecoms house(右)とecoms factory(左) 2004(平成16)年


SUSのアルミ建築に対する取組み

 SUSは、アルミ建築構造の告示が公布された02年の10月にecoms 事業を立ち上げ、アルミ家具、建築の開発製造を開始しました。翌03年5月にはオールアルミ建築の「ecoms hall」を建設し、その後も建築システムを建築家と共同開発するなど、アルミを主要構造体とする建築を数多く実現してきました。SUSがそれらで模索したアルミ建築の構法は、「ecomshall」の十字型柱とダブルウェブ梁による門型フレームの軸組系から始まり、パネル系構法では伊東豊雄氏との「福島工場社員寮」の曲面パネルや自社開発の「静岡M邸」の放熱パネルがあります。そしてスライス連結・積層構法では、山本理顕氏とのラチスパネルシステム、自社開発によるtsubomi アルミニウム・スペース・パッケージング・システムです。さらに伊東豊雄氏と共同で、アルミ押出材の圧縮とワイヤーの張力を利用した「sudare」という実験的な構法にも挑戦しました。また、SUSでは「静岡M邸」(05年10月竣工)において、構造体と仕上げ、設備が一体化した床、壁、天井(屋根)の押出材パネルを製作しました。さらに、FA(ファクトリーオートメーション)事業で蓄積されたエンジニアリング力をベースに、住宅における熱エネルギーの自動制御システムなどを含めたホームオートメーション化を検討し、日本の四季の変化に対してテクノロジーで対応することのできる「住むための機械」を目指しました。

アルミハウスに対する取組み

 これら技術の蓄積をもとにSUSは、08年初頭よりアルミハウスプロジェクトに取り組み、同年10月の本誌25号から本連載を通して報告してきました。SUSのアルミハウスを、本誌26号にて次の6要件で定義しました。
第一の要件…主要構造材がアルミであること
第二の要件…住宅全体がプレファブリケートシステムで構築されていること
第三の要件…スケルトン・インフィル構想であること
第四の要件…リユース、リサイクルを前提としたアルミ複合部材で構成されていること
第五の要件…自然環境に配慮しなければならないこと
第六の要件…オートメーション化を図ること
 そして、5年の年月を経て、基本方針(※参照)をまとめました。

アルミハウス開発の所産

 そして今年6月、SUSはアルミハウスの構成部位として、ヒートブリッジの遮断に有効な外断熱を採用した断熱性の高い外壁パネル、屋根パネルを開発しました。構造材では、小型の押出材をリベットで結合したトラス梁(梁背750/500/250㎜)を考案し、軽量でより大きな断面剛性を確保しました。梁背500㎜のトラス梁では屋根荷重のみであれば8mの梁間を実現しています。またアルミハウスは、その立体としての精度の高さを保持するために絶対的な水平面であるプラットフォームをアルミ押出材の円柱4本で構成されるVコラム(開発)で支え、高床(ピロティ)式としました。さらに省エネルギー、自然との調和が求められる時代において1つの解決方法として、「静岡M邸」では、手動ルーバーを四方に第二の外壁として、電動ルーバーをテラスのパーゴラとして開発、採用しました。それは現代の簾のごとくです。
 現在、アルミハウスは8mスパンをもとに、平屋建ての延床面積180㎡程度、130㎡程度と、都市部用の住宅としての2階建て130〜140㎡程度のプロトタイプを検証中です。

※基本方針

①アルミハウスを構成するすべてのフレーム、パーツ類は標準化設計されたものであり、工場で生産されたものが基本となる。組立作業は、常に最短となることを目指す。
②負荷重量、スパン、使用環境などの建築条件、および使用環境などの設計諸条件によって、ラインアップされたフレームの種類や締結システムの中から選択する。
③アルミフレームやブレース材、パネル材および締結金具で構成されるユニットが基本となり、各用途や機能に応じて必要なパーツを選び、フレームに付加する。
④フレームを組み上げたスケルトン構造が基本となるが、外部環境に対応するための環境システムや材料、機器類にも設計対応した構造とし、居住性を満足させる。
⑤アルミハウスは耐久性の高い素材やパーツ類で構成され、土工事を除きすべて組立作業を基本とする。移設も短時間で解体され、すべての部品は再利用され再組立できることを基本とする。

「工場で製作される住宅が快適なものであることを広くしめさなくてはならない。」

(ジャン・プルーヴェの言葉)

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    t 2 標準タイプ 2012(平成24)年

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    静岡事業所実験棟 2012(平成24)年

住宅産業の現況

 90年代から、住宅産業は「量の確保から質の向上へ」の時代となり、住宅政策も40年にも及ぶ「住宅建設計画法、住宅建設五箇年計画」から06(平成18)年に「住生活基本法、住生活十箇年計画」へと転換し、21世紀の目標を「よいもの(住宅)をつくってきちんと手入れをして大切に長く使う」と設定しました。環境との共生を図る省エネルギー、省資源化や、長寿社会におけるバリアフリー化、良好な住環境の形成、少子・高齢化社会を支える居住環境の整備、さらには阪神・淡路大震災の影響から安全で快適な都市居住も挙げられています。
 そして、11年3月の東日本大震災、福島原発事故によって、住宅として、防災・安全はもとより、エネルギーの地産地消の観点からエネルギーの自立も提起されています。
 一方、09年以降の住宅着工戸数は、31年ぶりに100万戸を割り80万戸前後となり、新築一戸建て住宅30万戸前後は、築30〜35年からの建て替え需要と団塊ジュニア(新人類)の新築需要によります。そこには、建て替えにおける高い居住性への欲求と若年層の新たなる要望が顕著です。単独世帯、夫婦世帯の増加や高齢者の1人、2人住まいの増加に伴い、従来のnLDKを基本とするプランは解体され、個室の「孤室」化、ダイニングルームの変質、リビングルームの機能喪失などによって、新たなるライフスタイルが出現しています。

「t²」の誕生

 このような状況下、SUSは、アルミハウスプロジェクトから生まれた断熱性の高い外壁パネルによって、ミニマル居住ユニット「t²」を開発しました。t2標準タイプ約8㎡、ロングタイプ約12㎡のユニット単体、あるいは複数個を鉄骨構造体へ組込み、スケルトン・インフィルのアルミハウスを構築するシステムです。アルミハウスプロジェクトでは、延床面積64㎡から180㎡程度の戸建住宅を想定していましたが、「t²」では100㎡までの比較的小規模な戸建住宅を構想しています。また、「t²」は戸建住宅のみならず、集合住宅や社員寮、ホテルなど宿泊施設としての利用も考えられます。これまで検証してきたアルミハウスのプロトタイプと併せて、都心から郊外まで、ミニマルからスタンダードまで、工場製作を特徴とするアルミハウスのラインアップがさらに充実することとなります。
 「t²」による都市型戸建住宅は、京の町家であり、都市の利便性を最大限に享受したコミュニティを形成する、「わが家の冷蔵庫はコンビニエンスストア」といった生活も可能にするのかもしれません。対照的に、アルミハウスのプロトタイプは、外部空間「縁の空間」によって緑と共生したスローライフを具現化した生活にもなり得ます。アルミ製ミニマル居住ユニット「t² 」を含め、これらのアルミハウスは、①ユニバーサル・スペースであること、②メタモルフォシス(変形、変態、変容)であること、③緑住のスマートハウスであることを指向することに変わりはありません。
 アルミハウスのプロトタイプも、市場参入に対して部材の標準化、構造解析ソフトの用意などのインフラを整備しマーケティング環境が整い次第、発表したいと考えています。

  • 静岡M邸 2005(平成17)年 拡大

    静岡M邸 2005(平成17)年

  • 福島社員寮 2005(平成17)年 拡大

    福島社員寮 2005(平成17)年

  • tsubomi 2005(平成17)年 拡大

    tsubomi 2005(平成17)年